LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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現在、すでに口径1メートルの「mini-TAO望遠鏡」が観測を開始しており、世界最高地点の天文台としてギネスブックにも認定されている。数年後を目処に、口径6.5メートルの大型望遠鏡の開発と設置を目指す。
それにしても、標高5600メートルという過酷な環境に、なぜ赤外線望遠鏡を設置しようとするのか?
我々にとってなじみ深い天体望遠鏡といえば、目に見える光(可視光)を観測する光学望遠鏡だが、天文学ではそれ以外に電波を観測する電波望遠鏡が広く使われる。宇宙にあまねく存在する低温の星間ガスのように可視光を出さない物質を観測するには電波望遠鏡は必須で、電波天文学という一大学問分野となっているほどだ。
しかし、可視光と電波だけでは宇宙の観測にはまだ不十分なのである。赤外線望遠鏡ならば、遠方の宇宙で誕生しつつある銀河や、惑星が形成される過程のガス状の円盤も観測できる。銀河や惑星が形成される仕組みを解明するには、可視光、電波、そして赤外線に対応した望遠鏡を使って、総合的にデータを集めることが欠かせない。また、上空の二酸化炭素濃度も精密に測定することができるため、地球温暖化の予測にも大きく貢献すると期待されている。
一方で、赤外線は大気に吸収されやすく、標高が低いと途端に観測が困難になる。電波望遠鏡なら標高5000メートルで十分だが、赤外線望遠鏡はより標高が高く、大気の影響を受けにくい山頂に建設する必要があるのだ。

赤い円環の上部が望遠鏡本体で、下部が赤外線カメラ
[写真] 赤い円環の上部が望遠鏡本体で、下部が赤外線カメラ
Photo Credit : 東京大学TAOプロジェクト

赤外線望遠鏡を高山の山頂に設置すれば、貴重なデータが得られることは天文学者であれば誰にでもわかる。ところがmini-TAOが建設されるまで、誰もチャレンジしようとはしなかった。標高5600メートルは、高山病になる可能性も高く、危険極まりない場所だからである。東京大学がmini-TAOの計画を発表した時、海外研究者の反応は「日本でも有数の大学がなんでそんな馬鹿げたことをやるんだ?冗談だろう?」というものだった。だが、東京大学のチームは、山頂までの道路をつくり、資材を引き上げ、あっという間にmini-TAO望遠鏡を完成させてしまう。しかも一度も事故を起こさずに。海外チームは「なぜ自分たちでやらなかったのか」と後悔したという。

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