LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Topics
海外事例

僻地における自然再生可能エネルギー導入のモデルケースを目指す

アタカマ砂漠における天体観測の基地が置かれるのは、望遠鏡の設置場所から50キロメートルほど離れたサンペドロの街である。サンペドロは標高2400メートルほどのオアシスにある、人口5000人ほどの小さな観光地だ。
この街の消費電力は3MW程度で、現在は天然ガスを燃料にした火力発電所が電力を供給しているが、供給状況は安定しているとはいえない。天然ガスは東のアルゼンチン側からパイプラインで送られてくるが、両国間の関係によって供給が途絶えることもこれまでにしばしばあった。安定した電力供給は、サンペドロの悲願でもある。

東京大学は、観測基地建設のために1万3000平方メートルの土地をサンペドロ市内に購入済み。郊外の砂漠に、約200メートル四方にわたって太陽電池パネルを敷設して、5MWクラスの発電を行うという。太陽電池パネルで発電された電力は、蓄電池に一時的にためてから、サンペドロの電力網に接続され、その一部が50キロメートル離れたチャナントール山の山頂に送られるという構想だ。最終的には、サンペドロの消費電力のうち、3割程度を太陽光発電でまかなうことを目指す。これが実現できれば、サンペドロとしては電力の安定供給だけでなく、火力発電所の燃料代も抑えられる可能性がある。

サンペドロデアタカマ市太陽光発電、蓄電、超伝導送電施設計画の概要
[写真] サンペドロデアタカマ市太陽光発電、蓄電、超伝導送電施設計画の概要
Photo Credit : 東京大学TAOプロジェクト

変動の大きい自然再生可能エネルギーを電力網に導入する場合、その調整が課題になる。ところが、サンペドロの電力網は独立したグリッドになっており、しかも製造業などの産業があるわけではない。ある意味、自然再生可能エネルギーの導入実験としてはおあつらえ向きの環境が整っているといえよう。
また、サンペドロの街から山頂へは、超伝導直流送電で電気が送られることになっている。超伝導ケーブルを使うことで、通常の送電線に比べて圧倒的に送電ロスを減らせる。中部大学の山口作太郎教授らが研究している超伝導直流送電は、交流の超伝導送電よりもさらに送電ロスが少なく、冷却器等のコストも抑えられる可能性があるのだ。
もっとも、ソーラーTAOの計画それ自体は、従来の天体望遠鏡プロジェクトに比べてはるかに割高になる。ディーゼル発電機は5000万円程度で設置できるが、砂漠に太陽電池パネルを並べ、さらに実験段階の超伝導直流送電を行うとなると、その予算は10億円以上にも上ると予想される。

アタカマ砂漠に展開する5MW級太陽光発電施設の想像図
[写真] アタカマ砂漠に展開する5MW級太陽光発電施設の想像図
Photo Credit : 東京大学TAOプロジェクト

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.