LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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海外事例

日本に必要なのは、学術研究、エネルギー/資源、外交の総合戦略

では、ソーラーTAOは研究者の自己満足的なプロジェクトなのか? 実は、ソーラーTAOが目指しているゴールは、天体観測や送電実験の先にある。

日本は、個々の要素技術には優れながら、それらを総合的なビジネスモデルに仕上げていくのが苦手だと常々言われている。自然再生可能エネルギーを地元の電力網に接続するソーラーTAOは、海外におけるインフラビジネスのモデルケースになり得るのだ。
しかも、アタカマ砂漠周辺には、世界最大の生産量を誇るチュキカマタ銅山や世界最大のリチウム生産地のアタカマ塩湖がある。現地住民に対して環境負荷の少ないエネルギーを提供しつつ、インフラ実験や貴重な資源の安定確保を狙うという、新しい外交をこの土地から始めることができるかもしれない。
そして、ソーラーTAOの先には、サハラソーラーブリーダー(SSB)計画やGENESIS計画がある。SSB計画は、アフリカのサハラ砂漠周辺に太陽電池工場を設置して、太陽光発電所を増殖させるというもの。製造工場と余剰電力を倍々ゲームで増やすことができれば、2MWの小規模発電所から始めて、30年後には100GWの発電が可能になると試算されている。そして、GENESIS計画では、世界中の太陽光発電所を超伝導電力網で結ぶという。

サハラソーラーブリーダー計画とGENESIS計画。砂漠の太陽発電所を超伝導電力網で結ぶ
[写真] サハラソーラーブリーダー計画とGENESIS計画。砂漠の太陽発電所を超伝導電力網で結ぶ。
Photo Credit : 東京大学TAOプロジェクト

現時点で、SSB計画、GENESIS計画はまだ壮大な夢物語に過ぎない。砂漠に大規模な太陽光発電所をどうやって建設していけばいいのか、現地の住民とどう友好関係を結んでいけばいいのか、超伝導送電は本当に実現できるのか。アフリカに高価な超伝導ケーブルを敷設したら反政府勢力の標的になるのではないかという懸念もある。
親日的なチリで行われるソーラーTAOプロジェクトは、こうした課題に対する経験を積むことができると期待される。
プロジェクトを推進する東京大学天文学教育研究センター長の吉井讓教授は、こう語る。
「特に3.11以降、純粋な学術研究に対する予算措置の必要性に疑問が呈されることが少なくありません。大震災という国難の時に、遠い外国に望遠鏡をつくるということに対する違和感というか、賛同しかねるという気持ちは理解できます。もちろん復興は大切ですが、一方で国の将来を見すえ、友好国との関係を深め資源を確保するという中・長期的なビジネスモデルを立ててコツコツとやっていくことも大変重要なことと思います」

これまで、日本の国家戦略はあまりにも縦割りになっていた。学術研究、海外でのビジネス、外交、それらを別々の省庁が担当していたのである。しかし、これからはそうしたやり方では国際的な競争に勝てない。学術研究とインフラビジネス、外交を包含するしたたかな国家戦略が求められるのではないだろうか。

Writer

山路達也

ライター/エディター。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『日本発!世界を変えるエコ技術』、『マグネシウム文明論』(共著)、『弾言』(共著)などがある。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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