LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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スマートコミュニティによる社会インフラの再構築

被災地において、生活基盤を取り戻し、CO2削減を目指した社会と安全安心で高齢者に優しい快適な生活が送れる環境の実現には、街づくりのフレームワークをつくり、社会インフラのイノベーションを生み出していくことが必要である。東北の地が新しい地域づくりの具体的なモデルとなるためには、地域が主体的に取り組むことのできる環境を支援していくことが重要となる。制度や規制も含め社会システム全体の再検討・構築をしていくとともに、住民との対話を重ね、これまで以上に広範囲に渡る利害調整や多種多様なステークホルダーとの調整も必要となるだろう。
居住の安定確保など被災地域の復興や、地域コミュニティの再生には、医療や介護などの地域支え合いの環境、学校施設、文化の振興、雇用対策、そして、農林水産業をはじめとした地域経済活動の再生も同時に支援していく必要がある。
これらを支えるのが、交通・物流基盤であり、ICTやクラウドコンピューティング、そしてそれらを包含する社会インフラや社会サービスが、スマートコミュニティである。
被災地だけでなく、地盤沈下が進む地方においても同様の発想が求められる。全国の地方都市では、高齢化と人口減少そして空洞化が深刻化し、効率的な公共投資が困難なスプロール現象*3が大きな問題となっている。また、法制度や規制、そして費用負担のあり方など解決していかなければならない課題も多い。
スマートコミュニティという概念のもと、社会における新たな関係性を再定義し、新たな社会インフラや社会サービスをつくっていく必要がある。
ヨーロッパの中規模都市のランキングを調査した「European Smart Cities」のEUの研究報告書(2007年刊)では、スマートコミュニティについて、以下の6つのモデルを定義しているが、エネルギーや環境にとどまらず、教育や医療、行政サービスなどを包括する非常に幅広い内容となっている。

(1)スマートエコノミー(経済活動)
柔軟性の高い労働資本、国際市場への展開や生産性向上の実現などから競争優位の市場環境の創造
(2)スマートエンバイロンメント(自然のリソース)
自然環境に配慮したインフラ環境整備
(3)スマートモビリティ(交通)
ITS(高度道路交通システム)などの交通システムの高度化による都市生活の利便性向上
(4)スマートピープル(教育と人的資本)
人の適正能力や社会性の創造。ICT(情報通信技術)活用による効果的な人材教育や育成
(5)スマートリビング(生活の質)
医療インフラの整備状況、治安環境、文化施設、観光地としての魅力など文化的なインフラ環境整備による生活基盤の安定
(6)スマートガバナンス(行政参加)
行政サービスの充実。オープンガバメントや電子行政。

スマートコミュニティは、気候条件や地勢条件、人口分布、産業構造、交通システム、地域のニーズや制約要件など社会における相互の関係性を最大限考慮し、全体をうまく活かす視点で、社会のあるべき姿について本質的な議論や再定義を進めていく必要がある。
特に、東北地域の被災地においては、各市町村の実態や政策方針などを踏まえ、地域の資源を活かした地域コミュニティの復興を目指すことが必要だ。そして、長期的な視点からスマートコミュニティのような施策に「選択と集中」を伴った投資を行い、それに見合った収益を生み出せる持続可能な地域社会を創りだしていくことが求められている。

震災復興に向けて進められているスマートコミュニティの取り組みは、今後の日本の地域のコミュニティのあり方を考える上でも重要な取り組みとなるだろう。

[ 脚注 ]

*1
ITS(高度道路情報システム):人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、様々な課題を解決するためのシステム。
*2
クラウド基盤:自分のパソコンや携帯電話ではなく、ネットワーク上にあるサーバのサービスを活用できるコンピューティング形態を動かすためのソフトウエア。
*3
スプロール現象:都市が発展拡大する場合、郊外に向かって市街地が拡大するが、この際に無秩序な開発が行われることをスプロール化と呼ぶ。計画的な街路が形成されず、虫食い状態に宅地化が進む様子を指す。

Writer

林雅之

ICT企業勤務。国際大学GLOCOM客員研究員。
政府・地方のクラウドおよび情報通信政策関連の案件担当を経て、クラウドサービスの開発企画を担当。ITmediaオルタナティブ・ブログ「『ビジネス2.0』の視点」ブロガーとしてスマートコミュニティやクラウドの最新動向を精力的に発信。クラウド利用促進機構総合アドバイザー。
著書『「クラウド・ビジネス」入門』。

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