LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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EV蓄電池から売電もできるスマートグリッド

SETISに連なるもう1つのプロジェクトは、ポルトガル最大の電力会社EDPがエボラ市(人口17万)で行う"InovCity"。エボラ市内には中世の遺跡が残っており、世界遺産にも指定されている。ポルトガルでは国民が「もっとも住んでみたい都市」のナンバー2だ。

InovCityのプロジェクト展示
[写真] "InovCity"のプロジェクト展示
Photo Credit : © ISA - Intelligent Sensing Anywhere

日本から見てこのプロジェクトが興味深いのは、欧州の電力事情の一端がよく理解できるからだ。日本では、電力料は毎月検針員が各家庭を回って電力計を読み取り、その月に使った量に応じて決まる。そこにアバウトさはない。しかし、ポルトガルでは、「電力消費量の推計に基づく請求」が行われている。検針員が電力計を見て回るのは2ヶ月ないし3ヶ月に一度。それによってその家庭の使用量を毎月推計し、それを請求する。ある電力計の専門家によると、実はこのような請求をしている国は複数あるそうだ。
EDPのInovCityプロジェクトは、街角のEV(電気自動車)充電スタンド設置なども含むれっきとしたスマートグリッドプロジェクトだが、その大元には、こうした古い請求方式を実需に基づいた請求方式に改めるという、旧世代インフラ改修事業のような性格がある。日本から見れば驚くような古い要素を残している電力サービスを現代的なレベルに上げるためにスマートメーターを設置し、ついでに種々のプログラムも走らせる。それが結果としてスマートグリッドとなっている。そんな格好だ。所変われば品変わるで、スマートグリッドの取り組みにはお国柄が反映する。
InovCityの全体像は、3万世帯へのEBOX(スマートメーター兼HEMSコントローラー)の設置、家庭の小規模発電の組み込み、デマンドレスポンスの実現、市内へのEV充電スタンドの設置などから成る。

米国や日本では、スマートメーターは電力消費量に関連した情報のやりとりをするのみで、家庭内の家電製品などの電力消費に関与するHEMS系の機能は持たないのが普通。これは、二つの機能を兼ねると単価が高くなるということと、HEMS系の標準化が進んでいないためにどういう機能を乗せていいかまだ見えないことが理由としてある。それに対して、ポルトガルの電力会社EDPでは、エボラ市で始めたEBOXの設置を2017年までに全国600万世帯に拡大する計画を持っており、実質的に国中のHEMSを自社仕様で統一する格好になる。従って、国内ではHEMS標準で混乱が起こる可能性がないため、当初からHEMS機能を乗せたEBOXを投入しているのだろう。
EV充電スタンドの使い方も興味深い。EVのカーオーナーが充電できるだけでなく、電力価格が高い時間帯にはEV搭載蓄電池にある電気をそこで「売る」こともできるようになっている。これは、家庭が太陽光パネルなどで発電した小規模電力を買い取るのと同じ発想から来ているプログラムだが、日本を含めた諸外国ではあまり聞かない話だ。利ざやを稼ぐ人たちが出現する可能性があるからだ。

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