LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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投資回収を容易にするマルチユーティリティ

ドイツでは都市ぐるみの低炭素化を推し進める政策として、2007年から総予算1億4,000万ユーロ(約140億円)で"E-Energy"と呼ばれる政策を実施している。いくつかのモデル地域を指定し、先端的なプログラムを地域レベルで実験してみて、結果がよければ全国で導入しようという狙いだ。マンハイム市(人口31万)に拠点を置く電力・ガス併営企業のMVV Energie社は、IBMや通信技術企業パワープラスなどとコンソーシアムを組んでこれに応募し、無事に選定された。プロジェクト名は"マンハイム・モデルシティ"。

マンハイム・モデルシティのスマートグリッドコントロールルーム
[写真] マンハイム・モデルシティのスマートグリッドコントロールルーム
Photo Credit : MVV Energie Press Image

MVV Energie社はドイツ第七位の電力供給事業、第五位の地域冷暖房熱供給事業を営み、115万の顧客を持つ。また、第三位のごみ焼却炉運営事業者でもあり、ごみ焼却からも電力と冷暖房熱供給用の熱を得ている。
同社の言う地域冷暖房供給事業(District Heating Utility)は日本では熱供給事業と呼ばれており、横浜市のみなとみらい21地区、千葉県の幕張新都心などに例がある。多くは更地から開発をする際に熱供給インフラ(パイプなど)を地下に設置し、そこに冷暖房用の熱を通す形で実現している。
マンハイムのMVV Energie社は配電網はもちろんのこと、地域に冷暖房熱供給用の配管インフラを持っている。これをうまく使うと一種の「熱のスマートグリッド」ができる。どういうことか?

欧州では家庭や企業に日本で言うコージェネレーション、彼らの言うCHP(Combined Heat and Power)のユニットがかなり普及している。これは電力で言えば、家庭や企業に太陽光発電や風力発電のユニットが設置されているのに等しい。従って、熱を融通するインフラがありさえすれば、これら家庭・企業のCHPユニットが産む熱をMVV側で引き取ったり、逆に不足分を補ってあげたりすることができる。仮に熱需要のピーク時に家庭・企業のCHPから安く熱を調達できれば、MVV社にはメリットがある。家庭・企業側でも、自らのCHPを動かすかどうかは、MVV社の供給単価を見ながら決めることができる。スマートグリッドで言うデマンドレスポンスの図式そのままだ。
マンハイム・モデルシティでは、こうしたことを熱だけでなく、電力でも行う。家庭内には「エナジー・バトラー」(エネルギーの執事)と呼ばれる装置が取り付けられ、熱供給インフラを使う冷暖房、電力、ガス、水道の四分野について、もっとも経済的な利用ができる仕組みになっている。こうした複数の公共サービスにまたがる「スマート化」を、彼らは「マルチユーティリティ・アプローチ」と呼んでいる。
マルチユーティリティ・アプローチはスマートメーター(マンハイムの場合はエナジー・バトラー)の投資回収を行いやすいというメリットがある。電力業の世界では、日本だけでなく米国などでも、どうやってスマートメーターの費用に見合う経済効果を生むかという議論が続いている。現時点では決定的な良策は見いだされていない。そんな中で一つのスマートメーターをガス事業と電力事業とで併用することができれば、それだけ投資回収がしやすくなる。マンハイムの事例はその先端を行くものだと言える。

マンハイム・モデルシティでは、エナジー・バトラーが家庭内の家電(洗濯乾燥機、皿洗機、冷蔵庫など)、CHPユニット、小規模発電機などをコントロールする際の通信技術に、日本で言うPLC(電力線通信)を用いている。例えば、電力ピーク時に電力市場の価格がぐっと上がることがあるとすれば、電力会社からその情報を得たエナジー・バトラーはPLC経由で家電製品に命令を出し、動作をセーブする。電力配電網から家庭内のHEMS(Home Energy Management System)まで一気通貫でPLCがカバーするケースは、世界でも珍しい。
MVV Energieではこうした実験によって、マンハイム市の住民を「エネルギーの賢人」(ホモ・エネルギティクス)に変えていこうとしている。

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