LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Topics
海外事例

高騰するピーク電力を買わずに済む仮想発電所

もう1つの事例はProgress Energyが行っている"Optimized Energy Value Chain"だ。同社はフロリダ州などで発電、送電、小売を行っている(米国では州により規制が異なり、発電と小売を併営できる州もある)。Optimized Energy Value Chainは米国スマートグリッドの世界で言う「ヴァーチャルパワープラント」"Virtual Power Plant"(VPP)を同社なりに呼び変えたものだ。
VPPとは、電力会社の送配電網に接続されている発電所、企業の自家発電、家庭の再生可能エネルギー発電、EVの蓄電池、さらには企業と家庭の「需要の固まり」などをすべて仮想的にプールして、それを仮想的な発電所に見立てて活用しようという発想だ。
これを理解するには米国の電力卸売市場のすさまじさを知るのが早道だ。電力の自由化が進んでいる米国では、おおむね、発電、卸、小売が分かれている。卸売市場では一般的な市場原理ように、需要が多ければ値段が高くなり、需要が少なければ値段も低くなる。このため、夏期にみんなが冷房を使う時間帯では、深夜早朝に比べて9倍の卸売価格が付くケースがある。実例では、2011年8月1日の米北東部卸売市場のケースがある。深夜0時から午前9時ぐらいまではメガワット時当たり30ドル程度で推移していたものが、13〜14時には230ドルに跳ね上がり、15〜16時には280ドル以上に高騰した(PJM資料による)。
これは極端なケースだが、真夏のピークにはこうした高騰が起こりうるということだ。一般的な電気料金体系では、こうしたごくまれに暴騰するピークの卸売価格を小売価格に機敏に反映させるようにはなっていない。従って、卸売市場から買って小売する会社はこうした特異日には逆ざやになる可能性がある。需要特異日のピーク時間帯には、お金を払ってでもいいから、家庭や企業に電力使用を止めてもらいたいぐらいなのだ。
これがVPPの発想の背景だ。電力会社管内のすべての発電と需要の資源をプールして、そこに「余っている電力」があれば、それを需要に回してやることができ、卸売市場から高い電力を買わなくて済む。VPPはそれを可能にする。
個人を含むすべての需要家にスマートメーターを設置して、リアルタイムで需要を計測することがVPPの大前提だ。Progress Energyはそれを行おうとしている。
すでに動いているVPPのプログラムで、消費者にも非常にわかりやすいものに"EnergyWise"がある。フロリダ州の同社顧客はこれに無料で加入でき、オートマチックな節電ができれば年間最大150ドル程度のキャッシュバックがある。EnergyWise加入世帯にはスマートメーターに加えて「自動節電信号受信装置」とエアコンなどに付ける「自動節電機能アタッチメント」が無料で設置される。
電力卸売価格が高騰するピークになると、Progress Energyがフロリダ州の営業管内で電波シグナルを発し、それを家庭の装置が受信して、自動的にエアコンなどをセーブモードにする。Progress Energyはこれによって深夜早朝の数倍にもなる高い電力の調達を回避でき、その経済メリットはEnergyWise関連の投資負担を補って余りあるというわけだ。

日本のスマートシティは世界最大級

このようにマンハイム、エボラ、ヒューストン、フロリダなどの事例を見てくると、テクノロジー系の低炭素化方策の導入も都市や地域でまったく異なった様相を持っていることがわかる。スマートシティもスマートグリッドも非常に大きな金額の投資を必要とするものだけに、誰が何の目的でお金を出しているのかをしっかり見ることが大切だ。
各国の投資状況を見てみると、日本のプロジェクト規模を実感できるであろう。欧州のSETISプロジェクトでは、もっとも大きな総事業費のものでも約80億円止まり。米国では上述のように2億ドル、すなわち約180億円。それに対して日本のスマートコミュニティ実証実験は横浜が740億円、もっとも小さい北九州でも163億円となっている(いずれも半分は国の予算、残りは民間・自治体の負担)。日本のプロジェクト規模がいかに大きいかがわかる。

Writer

今泉大輔

インフラ投資ジャーナリスト。インフラビジネスリサーチャー。
米最大手ネットワーク機器会社でリサーチャー勤務の後、独立。
ブログ: http://blogs.itmedia.co.jp/serial/

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.