LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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海外事例

スマートメーターで停電を減らせ

目を米国に転じよう。米国では2010年にオバマ政権が雇用促進戦略の一環として、スマートグリッド関連プロジェクトに総額34億ドルの助成金を付けた。電力会社、大学、自治体などから提案書を募り、優れたプロジェクトには総費用の半分まで助成するという政策だった。アメリカには約3,000の電力事業者が存在しており、多数が応募したが、うち六つの電力会社のスマートメーター設置プロジェクトに対しては、それぞれ最高額である2億ドルの助成金が付いた。従って、これらは米国のフラッグシッププロジェクトだと言ってよい。
そのうちの一つ、Center Point Energyの事例を見てみよう。同社はミシシッピやテキサスなど6州で主として電力卸を行う企業だ。テキサス州だけでも東京電力とほぼ同じ規模の電力需要があり、全米の15%を消費する。また、テキサス州では電力自由化が進んでおり、電力の卸売会社と小売会社が分かれている。消費者や企業は価格などにより複数の小売会社のいずれかを選んで電力を買う。Center Pointの下には10社以上の小売会社がある。配電網および電力計はCenter Pointの所有で、小売会社はこれを借りて小売を行う格好だ。

同社がスマートメーターに取り組む背景には、深刻な停電被害があった。テキサス州の海に面したヒューストン一帯はハリケーンの通り道となっており、強風でしばしば停電が発生する。なかでも2008年のハリケーン・アイクの被害は甚大で、Center Pointが小売を通じて電力を供給する226万世帯のうち、210万世帯が停電した、米国電力史上最大の停電だったと言われる。規模の違いはあれ、こうした停電が度々起こるため、「停電を自動的に知る仕組み」が不可欠と判断された。
これも日本にいるわれわれにとっては意外なことだが、米国で停電は、それが起こった世帯が電力会社に通知して初めて電力会社が知るところとなる。日本では停電の自動検知機能が送配電網に組み込まれており、自動修復機能すらある。それがないのが米国の実情だ。
従って、各世帯にスマートメーターを設置し、そこから定期的に上がってくる信号を電力会社が集め、モニタリングする仕組みが有用となる。もし停電があれば、そこのスマートメーターからは信号が上がってこないので停電だとわかる仕組みだ。迅速に把握できれば、迅速に復旧工事を始められる。
Center Pointでは、米政府の助成金2億ドルのうち、1億5,000万ドルをスマートメーターの設置に、残り5,000万ドルをインテリジェントグリッド(送配電の自動化)に充てる。それ以外にも4億4,000万ドルを関連方策に投入する予定だ。
これによって同社と取引するテキサスの電力小売会社はダイナミックプライシング・プログラムが提供できるようになる。ダイナミックプライシングとは、電力卸価格が高い時間帯に電力使用をセーブすれば、請求料金が割安になったり、ボーナスがもらえる料金体系だ。こうした料金体系やその他の節電方策がうまく動くようになれば、25万世帯規模の営業区域で年間9,000万〜1億2,000万ドルの発電コスト回避効果があるという。これはかなりの数字だ。
同社は2010年末で80万世帯のスマートメーター設置を完了させており、2012年中には全世帯への設置が終了する。2億ドルの助成金が付いた電力会社のなかでは、もっとも速いペースだ。

米国では送電網の老朽化により停電が多く、停電状況を自動的に可視化する仕組みとしてのスマートグリッドが求められている
[写真] 米国では送電網の老朽化により停電が多く、停電状況を自動的に可視化する仕組みとしてのスマートグリッドが求められている

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