LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Cross Talk

加藤 ── 破壊的技術革新の登場により、既存の市場で優位であった企業が凋落していまうという、いわゆる「イノベーションのジレンマ」も、技術とビジネスの世界で起こってくるはずです。そして、これからは、単に消費するだけでなく、生産者(プロデューサー)であり、消費者(コンシューマー)である「プロシューマー」も登場することになるでしょう。

清水 ── ただ買うだけではなく、何らかの意志を持って消費行動をする人々ということですね。

加藤 ── はい、消費者自身が欲しい商品を要求してくるようになります。
1994年のシリコンバレーで、私はインターネット革命を体験し、これは文明転換だろうと衝撃を受けました。その後もインターネットによる変革は続き、人々が動画をYouTubeにアップしたり、ソーシャルメディアで情報を交換するといった変化が起こっていますが、それでも、まだ一般の人々が社会を動かすまでには至っていないように感じます。
一方、エネルギーの世界は、生産行動そのものです。自分が太陽電池パネルで発電する、電池や電気自動車に蓄電する、値段が高い時に売電する、あるいは個人間で電力を融通する。そうしたパラダイムの転換も起こりうるでしょう。ITだけでは実現できなかった、生産と消費が密着したあり方です。これによって、人々は本当のプロシューマーに生まれ変わっていくと考えています。

また、現在の電力状況から考えても、プロシューマーが必要になってきます。いわば、スマートグリッドのプランB(代替案)ですね。従来のスマートグリッドのプランAでは、5年掛けて技術を開発して、6年目以降、政策によって社会に技術を普及させようという戦略論に基づいていました。けれど、現在日本が置かれた状況では、このプランAでは到底対応できません。

清水 ── プランAは先にハードウェアを用意する必要があるわけですね。

加藤 ── はい。しかしほとんどの原発が止まったことで、今年の夏のピーク電力は1割足りないと言われています。そうした中、市場に対して訴求力の高い電気自動車を提案し、夜間電力の蓄電や、さらには家庭のHEMS(Home Energy Management System)、オフィスのBEMS(Building Energy Management System)、地域のCEMS(Community Energy Management System)にも電気自動車をきちんと組み入れていく必要があるでしょう。

清水 ── おっしゃるとおりです。「電気が足らない時に電気自動車なんて」と憤慨される方もいらっしゃいますが、ピーク電力が不足している昼間に、電気自動車に貯めた電気を供給することが可能になります。そのためのネットワークをどう構築していくのかが、スマートグリッドの課題です。

加藤 ── 社会のエネルギーシステムがはたして効率的なのか、という命題に向き合う必要があります。現在のエネルギーシステムでは、熱による損失や送電ロスがあるため、有効に活用されているエネルギーは1/3に過ぎません。20世紀型の技術は、大規模集中型によってエネルギー効率を上げようとしてきました。しかし、21世紀は、小型分散で、熱も捨てずにエネルギーを有効に使えるパラダイムに転換する必要があります。

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