LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Cross Talk

日本は、五つの「不都合な真実」から目をそらしてはならない

加藤 ── 私も今度こそ本当にエネルギー革命が起こると感じています。電気自動車は今年から脱皮が始まるのではないでしょうか。家庭用は難しいにしても、配送用の商業車では広く使われるようになるはずです。
また、中国ではハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を飛び越えて、一気に電気自動車に進むと見ています。あれだけ人口のいる国が、照準を絞って普及を進めてくるとなると世界に大きなインパクトを与えるでしょう。
日本の自動車メーカーは、まずハイブリッド車、次にプラグインハイブリッド車、最後に電気自動車というシナリオを描いていますが、そのように段階を追っては進まないと私は思っています。
そして、2020年までに、私たちは「五つの不都合な真実」に向き合う必要があります。

──不都合な真実ですか。

加藤 ── 一つ目は、原発危機です。日本の原発は今年4月末までにすべて停止する可能性が高く、さらにドイツ、イタリアだけでなく原発立国のフランスでも原発見直しの気運が高まっています。
二つ目は、石油危機。イランやイスラエルの情勢は不安定化しており、原油は1バレル150ドル、もしかしたら200ドル以上になるかもしれません。これが原発危機と合わさると日本はかつて経験したことのない複合的なエネルギー危機に見舞われることになります。
三つ目は、発電のコスト問題です。従来、原発は他の発電方式よりも安価だといわれてきましたが、政府のコスト等検証委員会が昨年末に出したレポートによれば、賠償費やバックエンド事業*1のコストを除いて1kWh当たり8.9円「以上」というよくわからない結論になっています。使用済み燃料の再処理コストなどについては明示的に触れられていないんですね。8.9円といってもこれは下限であり、どこまで高くなるのかはわかりません。原発が安いとは必ずしもいえなくなりました。
四つ目は、三つ目とも関係しますが、原発の使用済み核燃料の置き場所です。仮に原発が100%安全で、発電コストが安かったとしても、使用済み核燃料の置き場所がなくなれば、原発を動かすことはできません。これは原発推進論者も脱原発論者も向き合わなければならない事実です。
そして、最後は日本の経常収支バランスですね。財政収支が赤字で、経常収支も赤字になれば、私たちは生活水準を下げるしかありません。それくらい経常収支の赤字は深刻な話ですが、これを回避するため一番重要なのは化石燃料の輸入を減らすことです。日本の輸入額60兆円のうち、30兆円を化石燃料が占めています。ですから、21世紀型の技術を用いて、小規模分散型の電源で最適化を図り、熱の有効利用を進めなければなりません。
それが、現在の生活水準を維持しつつ、発展していける社会を目指すために必要な方策でしょう。

[ 脚注 ]

*1
バックエンド事業:原子力発電所では、燃料製造・発電所建設・運転などの「フロントエンド事業」に対し、原子炉の廃炉費用や放射性廃棄物の処理、核燃料サイクルにかかわる事業を「バックエンド事業」と呼んでいる。

Profile

清水 浩 (しみず ひろし)※写真左
慶應義塾大学環境情報学部教授
株式会社SIM-Drive代表取締役社長

1947年宮城県生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学(後に工学博士号取得)。環境庁国立公害研究所(現 環境省国立環境研究所)勤務の後現職。
時速370キロの電気自動車「エリーカ」を開発、新しい電気自動車のプラットフォームを開発し、オープンソース方式で事業を展開して普及を目指している。
『脱「ひとり勝ち」文明論』、『温暖化防止のために 一科学者からアル・ゴア氏への提言』 などの著書がある。

加藤 敏春 (かとう としはる)※写真右
エコポイント提唱者
一般社団法人「スマートプロジェクト」代表

1954年新潟県生まれ。東京大学法学部卒。通産省(現経産省)入省。米国タフツ大学フレッチャー・スクールにて修士号取得。通産省サービス産業課長、内閣審議官などを歴任。エコポイント提唱者として活動。一般社団法人「スマートプロジェクト」の代表として、節電、スマートグリッドの推進、二酸化炭素排出削減などについても提言している。著書に『スマートグリッド革命』(NTT出版)、『節電社会のつくり方』(角川oneテーマ21)など。
5月初旬に新著『スマートグリッド「プランB」~電力大改革へのメッセージ ~』(NTT出版)を出版。 内容は"3.11後の5つの「不都合な真実」"と スマートグリッドの関係や、「スマート国民総発電所」構築に向けたアクションプランなどが書かれている。

Writer

山路達也

ライター/エディター。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『日本発!世界を変えるエコ技術』、『マグネシウム文明論』(共著)、『弾言』(共著)などがある。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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