No.002 人と技術はどうつながるのか?
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iPhoneはなぜ気持ちが良いのか?

上の話を踏まえて、iPhoneの話に戻ろう。アップルのiOSヒューマンインタフェースガイドラインに、以下のような記述がある。

Multi-Touchインタフェースはデバイスと直接つながっている感覚をユーザに与え、画面上のオブジェクトを直接操作している感覚を高めます。

このような記述があるだけでも、開発者向けのガイドラインとしては珍しく、感心してしまうかもしれない。実際確かに、iOSのガイドラインは非常によく書かれている。しかしこの理解だけでは我々が新しい体験をつくろうとしたとき、iPhone以上の操作体験を提供できない。ここではもっと深く「直接操作をしている感覚」とは何なのかを掘り下げたい。

iPhoneはなぜ気持ちがいいのか?iPhoneはタッチパネルでありカーソルがない。

VisualHapticsと異なりカーソルが画面の中になく身体の話ができないか?いやそうではない。画面全体がカーソルなのである。

カーソルのように透明性を得るにはユーザの指の動きに画面がなめらかに連動しなければならない。結果、画面の描画フレームレート(画面の書き換え速度)が高くなければならない。連動するがゆえに、自己帰属化し、透明性を得て、道具的存在となる。そして、デジタルデバイスであっても、ハンマーやハサミのように身体の一部のように利用できる。だから、iPhoneは気持ちが良いのである。

ガイドラインでは「直接つながっている感覚をユーザに与え」というようなやや抽象的な表現をしているが、今回見てきたように、そういった感覚を与えるためには「操作(指)とのなめらかな連動を設計」すればよい。もちろん、その上でどう動くかはさまざまである。だから、たとえば、画面に対して遅延や、10ミリ秒止めるなど、指との連動を乱せば、重みやひっかかりといった感触を提示できるだろう。

iPhoneの画面の気持ちよさを「アニメーション」が重要と解釈している設計者が多いようだが、それは誤解している。iPhone登場以来、それを真似ようとさまざまなメーカーがタッチパネルをむやみに導入し「iPhoneのような」画面表現を試みてきた。しかし、それはiPhoneの体験に似て非なるものである。それどころか、誤解したアニメーションの導入は、むしろ身体との連動を切り離し、道具としての透明性を低下させる。すなわち、道具的存在から事物的存在にしてしまっている。

iPhone以来タッチパネルの導入が盛んになり、タッチパネルこそ次世代インタフェースかのようにもてはやされた。しかし、iPhoneのような気持ちよい体験を提供するための技術は、タッチパネルというハードウェアで成立するのではない。透明性や自己帰属性に基づいた画面描画設計をしていくことなのである。iPhoneの画面は美しく、美観が重要だと考えてしまうかもしれないが、それも気持ちよさの要素だとしても、道具的存在になるか否かは別の問題である。

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