No.002 人と技術はどうつながるのか?
Scientist Interview

グーグルはどのようにして生まれたのか?

──ところで、グーグルはスタンフォード大学のこのコンピューターサイエンス学部から生まれました。共同創設者のラリー・ページはウィノグラード研究室の出身、そしてセルゲイ・ブリンはデータベース関連の研究室の出身です。グーグルがどんな風にして始まったのでしょうか。

彼らが関わる前から、学部内のデータベースとHCIグループが一緒になって進めていたデジタル図書館の研究プロジェクトがありました。プロジェクトが始まった当時は、インターネットはあっても、まだウェブがなかった時代です。その中で、普通のユーザーがどうやって図書館の専門的な構造化されたデータベースから、必要な情報を引き出せるのかを考えていたのです。そうこうするうちに、ウェブが生まれた。構造化されたデータベースに対して、オープン・ウェブ上の情報にはまったく構造がありません。これは言ってみれば、エスタブリッシュメント(社会の上層階級)とヒッピーのような違いです。初期の検索技術であるアルタビスタのようなものも出てきたのですが、時間がかかり、コーヒーを入れて戻ってきてもまだ検索結果が出ていないほどでした。しかも、結果がお粗末である。そうした状況の中で、ラリーとセルゲイは自分たちの方がずっといいものが作れると、ページランク技術(ウェブサイトの重要度をそこへのリンク数で測る技術)やクロール技術(ウェブページを自動収集する技術)を開発し始めたのです。ですから、われわれがこれをやりなさいと言ったわけではありません。デジタル図書館もいいけれど、自分たちはオープン・ウェブ検索の方へ行くと、自分たちで決めたのです。

──HCIグループでの研究は、グーグルにどんな影響を与えたと思いますか。

何が影響を与えたのかを特定するのはいつも難しいことですが、インターフェースのシンプルさ、レスポンス・タイムを短くすること、つまり完全な回答ではなくても、すぐに反応を返すことの重要さなどは、HCI研究の文化に通じることかもしれません。実際のリンク構造も、今から考えると影響があったと捉えることも可能かもしれませんが、はっきりはわかりません。

──検索エンジンから始まったものの、グーグルは今では多くのサービスを抱える大企業になりました。それをどう見ていますか。

[写真] スタンフォード大学コンピュータサイエンス学部

ラリーとセルゲイ自身は、グーグルが今や広告企業になったことに驚きを感じているのではないかと思います。彼らは元来テクノファイル(技術好きの人間)で、ガジェット(電子機器)や自律運転車や宇宙開発などに興味があるのです。また、それが彼らのエネルギー源になっている。一方、ソーシャル・ネットワークのようなことはコンピューターサイエンス的でもないので、当初はやろうとすら思っていなかったと思います。とは言え、企業には心理と現実がある。心理的にはハードなテクノロジーが好きでも、二人は現実的で頭も良く、企業経営に関する本も読んでいるでしょう。そして、成功の上に安住していると、いずれ他の企業にその地位を奪い取られてしまうことを知っているので、グーグル・プラスのようなことにも進出したのでしょう。技術的には、彼らならば何ら問題なく実現することができるわけですから。そして、20ほどの新しいことをやり始めておけば、それが自律運転車であれ、宇宙探索であれ、そのひとつがいずれ「次の大きな飛躍力」になると考えているのだと思います。

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