No.002 人と技術はどうつながるのか?
Scientist Interview

ジャンル分け不能なものこそ
ブレイクスルーを起こせる

──苗村研究室で一番の軸となるのは、どういった方針でしょう。

これまで紹介したのはソフトウェアだけではなく、ディスプレイや音の出力などの面を少し工夫すると、現実世界における体験がガラッと変わるという研究でした。これってジャンルがよく分からなくて、別にバーチャルリアリティでもないんですよね。バーチャルというよりは、現実に起きていることなのですから。

いわゆる情報処理、ソフトウェアコンピューティングなのかというと、ソフトで物理現象を制御しているのであって、ポイントは物理現象の新規性の方です。その物理現象が極端に新しいかというと、既存のものを組み合わせて使っているだけの面もある。じゃあ、結局何をしたいのかというと、やはり「新しい体験をもたらしたい」ということに尽きると思います。

──目的はあくまでユーザー体験の創出であり、それを実現するためのインターフェースは後から考えるというわけですね。

そうですね。研究室にもユニークな人材が揃っています。武井祥平君*8は丹青社*9での社会人経験がある院生でした。彼がある展示会のときにつくったデザインは、展示空間の上から枠をぶら下げるだけのものでした。枠の外にいろんな作品の名前がふわふわ浮いているんですね。その作品名と枠が視線でバッチリ一致するところまで歩いていくと、ちょうどそこに作品がある。

──そこに技術は介在していないんですね。

しかし、一方で実現したい体験のために技術の研究を重ねます。彼が大学院で作りたかったのは、ペコペコと飛び出す3次元ディスプレイでした。ただ、上に1m飛び出るためには、前もって1mの深さで埋まっていなければならず、装置が難しかった。

そこで考えたのが、巻き尺のように縮めた構造をモーターを使って出すシステムでした。1個だと倒れてしまうので3個組み合わせて、3方向で支えながらニョキッと伸びるという立体ディスプレイにまず漕ぎ着けたんです。

その後、それらを三角錐状にくっ付けて、下にタイヤを付けました。それぞれが勝手に伸び縮みをするときに、止めていたタイヤのところを中心に歩き出すロボットに変化してしまい、もはや当初考えていたものとはまるで違うものができ上がってしまった。小さな装置がロボティクスでワーッと広がってテントが完成する、変容する空間の建築になりました。

この武井君が今年3月、筧君に続いて研究室から2人目となる東大総長賞を受賞したんです。

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