食料問題の解決にも寄与
── 再生医療の発展に対して、他にはどのような期待が寄せられていますか。
松崎 ── 医療分野以外にもさまざまな使い方ができるんですよ。ヨーロッパでは細胞から食肉を作る研究に、研究費が下りていたりするんですね。この写真は、牛の細胞を増やして集めて食べられるようにした人工肉です。
栗城 ── これが人工的に作られた肉ですか?
松崎 ── ええ。ビーフハンバーグって、結局は牛肉の塊じゃないですか。私たちが食べている部分は筋肉なので、筋肉の細胞を作り、培養して、塊に成形してあげるのです。しかしそれだと味がないので、ちょっと脂肪分を足して、色もないので着色して。
栗城 ── すごい料理ですね(笑)。食欲が湧くかどうかはわからないですが、世界の食糧問題は解決しそうですね。
松崎 ── これを作ったのは、オランダのマーク・ポストという生物学者です。以前、学会で伺ったのは、このハンバーグを作るのに設備費込みで、大体3,500万円(25万ユーロ)くらいかかったと(笑)。
栗城 ── 3,500万円!
松崎 ── まだ、これは研究段階ですから(笑)。これが大量に作れるようになればもっとコストは下がるでしょうけれども、こうした研究にも使えるという例ですね。
── 現段階では作成に長い時間がかかると想像するのですが、そのスピードを速める方法や技術は登場するのでしょうか。
松崎 ── 前回お話した血管を作る場合もそうですが、培養するには細胞自身が作っていかなければならない部分もあるので、この大きさのハンバーグでもおよそ数日~数週間はかかるそうです。そこはまだどうしようもない部分がありますね。
ただ、それ以外の組み上げの部分では、もう少し技術が発達すると加速化できるはずです。例えば、インクジェットで出力するプリンターなどですね。
栗城 ── 食料問題を解決する研究というのは、素晴らしい話ですね。
松崎 ── これをいかに現実的なものに近づけていくかが、これからの課題になります。
技術を社会に開くためのアイデア
栗城 ── 僕は3,500万円のハンバーグという話を聞いて、これは「アート」だと思ったんです。MoMA(ニューヨーク近代美術館)などに展示されたら、きっと5億円でも買うコレクターがいるんじゃないかな?
松崎 ── 確かに(笑)。
栗城 ── 何が言いたいかというと、いわゆるスポンサードという形で、そうした収入を研究費に充てれば、研究が前進するかもしれないと思って。
あとは、お金も大事ですが、その研究に興味を持ってくれる人や、その世界に憧れる人が増えてくると、どんどん夢が広がると思いました。
松崎 ── そういう発想でやっている研究者は誰もいませんね。とても面白い視点をいただきました。
── 新しい技術が広く受け入れられていくには、それを独占するのではなく、社会に開いていく活動も重要かもしれません。栗城さんの視点はヒントになりそうですね。
松崎 ── 国民の皆さんの税金を頂いて研究しているので、やはり皆さんに成果を還元しなければいけないと常々思っています。サイエンスカフェや講演などで「こういう研究分野があって、こうしたことに役立つかもしれない」という話を分かりやすく伝える活動は、研究者にとって非常に大切です。
栗城 ── そういう話を聞くと、本当にワクワクします。
松崎 ── さらに、例えば宇宙食にも役立てられるんですよ。他の惑星へ行った時に、食事はどうするのか。まさか牛を連れていくわけにはいかないですからね。ですので、NASAも関心を持っているという話です。その方が非常に小さなスペースで運べるし、無菌状態で安全に作れますから。