No.013 特集 : 難病の克服を目指す
連載01 IoTの価値はデータにあり
Series Report

白物家電でも商用化

かつては、「冷蔵庫や洗濯機にIoTデバイスを取り付けてどうするの?」という見方があった。今ではそのような考えは見られなくなり、実際に白物家電にセンサを取り付けているIoT企業もある。米国のベンチャー、エイラネットワークス(Alya Networks)社は、クラウドプラットフォーム企業である。これまで同社は、玄関のドアの鍵、家庭のセントラルヒーティングシステム、天井ファン、エアコンなどにIoTデバイスを取り付け、そのデータを収集・解析・見える化することによって、顧客(消費者とメーカー)の省エネ化やマーケティングにつなげた。さらに、データを消費者にフィードバックすることで、省エネ化や省力化の効果を見える化するだけでなく、家電メーカーに対しマーケティングにも有効であることを示している。このため、パートナーとのエコシステムを築くことができたのだ。

例えば、玄関ドアの電子鍵なら、消費者は物理的な鍵だけではなく、スマートフォンやタブレットでも開閉可能だ。鍵メーカーのブリンクス社は、顧客がいつ鍵を開閉したかという履歴を把握しているが、周辺の温度や湿度、天候、季節などのデータと照らし合わせることで、さらに客の要求を知ることができる。

エアコンはエイラ社が富士通ゼネラルと共同で、IoTシステムを開発したものだが、このエアコンを取り付けた消費者は、スマートフォンでスイッチのオン・オフが可能になる。例えば、外出先から帰宅30分前に家のエアコンのスイッチを入れ、部屋をあらかじめ暖めておくといったことができるのだ。富士通ゼネラルにとっては、消費者は外気温が何度の時にスイッチを入れたのか、その設定温度や時刻、年月日、さらには何時間使ったか、部屋にいた人数は、といったデータをクラウドに上げ、そのデータを解析できるというメリットがある。もちろん解析したデータはグラフ化するなりして、スマホやタブレットで見られるようにしておく。すると、次の製品開発の顧客のニーズを吸い上げたことに等しく、マーケティングをすませたことになる。

エイラネットワークスのプラットフォームを構成する部品は、大きく分けて3つ――デバイス、クラウド、モバイルアプリ――である(図4)。クラウドそのものはアマゾン社のパブリッククラウドであるAWSを利用し、デバイスは村田製作所やルネサスエレクトロニクスから調達する。そしてエイラネットワークスは、モバイルアプリを作るための各種ライブラリやクラウドでのデータ解析、ルールエンジンなどを受け持つ。

エイラネットワークスのプラットフォームはデバイスとデータ収集・解析、モバイルアプリの3つ
[図4] エイラネットワークスのプラットフォームはデバイスとデータ収集・解析、モバイルアプリの3つ
出典:Ayla networks

これらのエアコンや玄関ドアの鍵などの製品は、Wi-Fiでクラウドにデータを上げられるようにしておく。家の中のWi-Fiルータを使えば、クラウドにデータを集めることが可能だ。そのためにエイラネットワークスは、Wi-Fiモジュールは村田製作所、IoTモジュールボードに搭載するマイコンはルネサスエレクトロニクスから調達するなど、多数のメーカーとパートナーシップを組んでいる。

リテールショップでも始まる

最後に、半導体メーカーの中でIoT部門に力を入れているのはおそらくインテル社であろう。インテルが注目するIoTは、工業とリテール(小売商店)分野である。まだリテール分野での事例はほとんどないが、アイデアはアクセンチュア社やSAS社などのコンサルティング会社から発表されている。

実際に2017年の1月には、アマゾンがアメリカのシアトルでスマートリテール実験を始めると発表した。これは、スーパーマーケットで品物をバスケットに入れ、レジに並ぶことなく、そのままゲートを通過できるというもの。支払額は、アマゾンの口座から自動的に引き落とされる。センサが品物を追跡して、バスケットに入れた商品を計算しており、商品が棚に戻された場合も検知できる。

IoTシステムはようやく実験が始まったところであり、実験結果を元に改良を続け、解析したデータの価値を明確にした者がビジネスを制するだろう。そのためのエコシステムの構築、クラウドの利用、AI利用のデータ解析、その見える化アプリ開発などが必要不可欠となる。連載3回目では、成功するためのさまざまな仕掛けを紹介する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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