No.009 特集:日本の宇宙開発
Scientist Interview

8年半後の水星到着を目指し準備が続く

 

──MMOは今年4月にヨーロッパに送られましたね。

最終的にはMMOとMPO、それから電気推進モジュールが合体した状態で打ち上げられます。今後は、その状態に組み立てた状態で、振動など打ち上げ時の環境に耐えられるかどうかを確認するための試験が行われます。

──そういった試験をクリアして、いよいよ打ち上げですね。打ち上げ予定は2016年度と発表されています。

2017年1月を目指して頑張っています。南米のフランス領ギアナにある宇宙センターから打ち上げられる予定です。

 

──打ち上げ後は、フライバイをしながら水星を目指すことになりますね。

ベピコロンボは地球で1回、金星で2回、水星で5回のフライバイを行います。2017年1月に打ち上げた場合、水星に到着するのは2024年1月の予定です。

2017年3月と7月にも、1か月程度の打ち上げウインドウがあります。実はそのときに打ち上げても、水星到着は同じ時期になります。1、3、7月のいつ打ち上げても、地球とのフライバイの時期が2018年7月で、その後はいずれも同じ軌道で水星に向かうことになるので、到着時期は同じになるんです。

──水星の周回軌道からの観測はどれくらい続けられる予定でしょうか。

まず地球の時間で1年間は観測を行い、その後、延長ミッションとしてあと1年間は行いたいと考えています。基本的には2年間は観測をしたいと思っていますので、それをベースとした設計になっています。

その後も、可能であれば探査機が生きている限りはやりたいと考えてはいますが、それは状況しだいですね。

──非常に長期間にわたるプロジェクトになりますが、難しい部分はどういったところでしょうか。

当然のことながら、途中で人が入れ替わっていきます。これは研究者だけでなくメーカーの方もそうです。そんな中でもノウハウをきちんと残していかなければいけません。たとえば試験中にみつかったさまざまなことをきちんと引き継いでいき、水星に到着してからの運用に生かしていく必要があります。情報をどうやって保持していくかというのは、けっこう大変なところです。

もう一つ大事なのは、若い人たちをプロモートすることです。2017年に打ち上げられたとしても、水星に到着するのは今から8年半後くらいです。そのころデータ解析を主としてやってもらうのは、今の中高生から大学院生くらいの人たちがメインになります。そういう人たちをいかにプロモートするかというのも、とても大切な問題です。最近、いろいろなところで話をするたびに、中高生、大学生、絶賛大募集中ですと、超青田刈りをしています(笑)。

打ち上げから水星到着までの主な日程(2017年1月打ち上げの場合)の図
[図8] 打ち上げ後、地球で1回、金星で2回、水星で5回のフライバイを行って水星に到達する。
 

Profile

早川 基(はやかわ はじめ)

JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授
Bepi Colombo プロジェクトチーム プロジェクトマネージャー

1981年、東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻修士課程修了。1991年、東 京大学大学院理学系研究科より博士(理学)の学位を取得。旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)助手、助教授を経て2005年より同研究所教授。磁気圏観測衛星の「あけぼの」衛星、GEOTAIL衛星、火星探査機「のぞみ」の開発に参加。2006年、水星探査計画「ベピコロンボ」のプロジェクトマネージャに任 命され、現在に至る。専門は惑星磁気圏物理学。

Writer

岡本 典明

株式会社ブックブライト代表。サイエンスライター/エディター。20年以上にわたって科学雑誌ニュートンに携わり、編集者、編集部長などを経て独立し2011年末に株式会社ブックブライトを設立。科学技術関連記事などの編集・ライティングなどを行う傍ら、電子書籍を刊行中。

URL: http://bookbright.co.jp/

Twitterアカウント; @BookBrightJP

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