No.008 特集:次世代マテリアル
連載01 身近な世界にまで広がり続ける半導体
Series Report

農業分野での活躍

このようなセンサー端末は農業にも使われる。広大な農地に上記のようなセンサー端末を多数設置して、植物の葉や土壌の湿度、大気の温度と湿度などを測定する。ここでもZigBeeネットワークを利用してゲートウェイからインターネットへデータを送る。橋梁の例と仕組みは、ほぼ同じと考えてよい。

加えて、水耕栽培の工場でも半導体は活躍する。現在、一般的に植物を照らす人工照明としては、高効率な高圧ナトリウム( HPS: High Pressure Sodium)ランプ等の広域スペクトル光源が広く利用されているが、より効率的な発育を促す方法としてLEDの利用が注目されている。具体的には、2014年のノーベル物理学賞で話題になった青色LEDと従来の赤色LEDを組み合わせた人工光源の研究・実験がすすめられている。葉緑素(植物において光を吸収する役割を果たす)は、光の三原色の中で、緑の光スペクトルより青と赤の光を吸収する特性をもっているためだ。人工光源の研究者たちによると、1個の青色LEDに対して4〜10個 の赤色 LED を使用する「レシピ」が適していると考えられている。

LEDは、HPS光源と比較し、葉緑素の吸収スペクトルが高い領域の波長を放射できる図
[図3] LEDは、HPS光源と比較し、葉緑素の吸収スペクトルが高い領域の波長を放射できる 出典:LED Magazine 2011年9月号

火山の噴火予測にも

このようなセンサー端末はさらにトンネル内の壁面や天井に設置する方法もある。天井に設置した板の劣化、ネジの劣化を検出し、事故を未然に防ぐのである。このような考えは、さらに、大きな火山にも適用できる。昨年起きた木曽御嶽山の災害のようなケースにおいても、火山の周囲にセンサー端末を数多く設置し、噴火を事前に予測できれば、避難勧告を早めに通達することが可能になる。すでに米国のハーバード大学では火山噴火を予測するためのセンサーを設置した実験を行っている(図4)。

火山の周囲にセンサー端末を多数設置して、噴火予測の精度を上げる図
[図4] 火山の周囲にセンサー端末を多数設置して、噴火予測の精度を上げる 出典:Harvard University

図4のセンサー端末には、GPS衛星からの地殻変動と同期を取るためのGPS受信機が搭載されている。(各端末が自律的につながる)アドホック方式のネットワークでセンサーからセンサーへデータを送り、ゲートウェイからベース基地へデータを送り、基地からインターネットへデータを送る。地震や噴火の予測にはセンサー端末の数が多ければ多いほど精度が増す。これらのセンサー端末の中身は図2と似た半導体で構成されている。

インターネットに直接データを送るM2M(マシン-ツー-マシン)もセンサー端末と呼ばれることがある。自動販売機、トラクターや農機具、建設機械、デジタルサイネージ、迷子のタグ、電子ブックなどにもM2M端末が使われているが、これも半導体の塊ともいえる。M2Mにはセンサーとデジタル無線通信機が搭載され、いわば携帯電話から音声機能を除いた無線回路である。

例えば、自動販売機では、自販機内の在庫数をカウントし、その情報がM2Mからインターネットを通じて自販機のサプライヤーに送られる。商品が減った時だけ補充すればよいため、定期的に回る必要がなくなるのだ。ブルドーザーなどの建設機械を製造する小松製作所は、貸し出している建機の場所や稼働状況をM2Mで把握している。デジタルサイネージは、街に設置された巨大なLEDスクリーン(図5)に広告映像や音楽などを流すサービスである。スクリーンに広告映像を流すCMS(コンテンツマネジメントシステム)を遠隔操作で自由自在に管理できるのはM2Mのおかげ。M2M通信モジュールを使って、広告会社あるいはサードパーティから映像を流したり臨時ニュースを送ったりできる。インテルはIoT事業部を設立した際にこのCMSソフトウエアもリリースしている。デジタルサイネージで街に集まる年齢層をカメラ映像から推定し、その年齢層向けの広告を流す試みも始まっている。LED自身も光る半導体だが、そのスクリーンに映す映像を制御するのも半導体、インターネットに送ったり受けたりする回路も半導体なのだ。

デジタルサイネージでは巨大なスクリーンに広告やプログラムを遠隔で制御の図
[図5] デジタルサイネージでは巨大なスクリーンに広告やプログラムを遠隔で制御

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