第3回
民生・産業から社会問題の解決手段へと拡大
- 2015.05.01
応用分野を拡大し続ける半導体産業。この先、半導体はどのような分野に使われるのであろうか。これまでの「産業」・「民生」という括りにとらわれず、土木・建築、農業、火山の噴火予測、犯罪防止など広く社会の中で使われていくだろう。連載の最終回では、これまで使われてこなかった分野や応用について考察する。
この先、半導体の利用はどこまで拡大していくのか。これまでのエレクトロニクス業界・モノづくり産業を超え、いま、新たな分野への展開がみえてきている。その一つがIoT(Internet of Things)と呼ばれるコンセプトだ(連載2-3「人々と社会の未来を支える半導体~IoT向け半導体」を参照)。IoTのインパクトは、半導体およびそのテクノロジーがモノづくりの世界から、インフラや公共事業など「社会」に広がっていくことにある。これまで、半導体やエレクトロニクスとは無縁だと思われていた土木・建築や農業分野での事例から、半導体の新たな可能性をみてみよう。
橋梁の劣化をモニターする
これまで半導体が使われていなかった分野への活用例として、橋梁がある。図1は、米国にイリノイ大学、日本の東京大学、韓国の大学院KAISTが共同で行った橋梁実験の様子である。橋のケーブル(実際は鋼鉄のパイプ)と橋板にMEMS振動センサーを設置し、常に毎日の振動の様子を記録しておき、異常な波形を観測するとそのケーブルや橋板の異常を検出する。橋梁が突然落ちるといった事故を未然に防ぐことが目的だ。
このセンサー端末は図2の左にある箱のような構造を持ち、その電源にはソーラーパワーを用いている。電源用の電力ケーブルは使わないため、どの橋にでも設置できる。センサー端末の電源となる太陽電池は、電池と言っても電気(正確には電荷)を貯めない。このため電気を貯めるためのコンデンサ(英語ではcapacitor:キャパシタ)が必要である。太陽が照らない夜間はコンデンサに貯めた電気を利用するのだ。この箱の中身は、右の基本回路からなる。中央のブルーの大きな四角形がマイコンを表しており、その周りにメモリや通信配線などがある。この実験ではZigBee(ジグビーと呼ぶ)ネットワーク通信を用いている。
このセンサー端末の中で、コンデンサ以外はほぼ半導体でできていると考えてよい(ソーラーでさえ半導体)。振動を検出するセンサーはMEMS(微小電気機械システム)という半導体技術で作られており、センサーからの信号を受信するアナログアンプ、A-Dコンバータ、制御及び信号処理用のマイコン、データを貯め込むメモリ、水晶発振器、ZigBee送受信機などからなる。全て半導体製品とコンデンサや抵抗、コイルなどの受動部品などで構成されている。このシステムに使われる半導体は、ソーラーパワーを貯めるコンデンサからの電気を少しでも長持ちさせるため、スピードよりも低消費電力を求められる。
ZigBeeと呼ばれるネットワークは、センサーからインターネットへ直接データを送るのではなく、センサーから近くのセンサーへ送り、最後にゲートウェイと呼ばれる端末からインターネットへ送る。通常、データを送信するのには多くの電力を必要とするが、この方法だと電力消費を抑えられる利点がある。インターネットに送るためのゲート機器には、商用の電源線が用いられることが多い。 こういった応用は橋梁だけではなく、高速道路のトンネルの天井板や、ジェットコースターなどの事故防止にも活用されるようになるだろう。