No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
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薬を磁石で誘導する

まずは、磁性ナノ粒子を使ったドラッグデリバリーシステム。微粒子技術が進んだことで、粒のサイズが揃った磁性ナノ粒子を作れるようになり、均一に分散させることが可能になった。この磁性ナノ粒子に薬剤を付着させ、必要な部位まで外部から磁気で誘導しようというのが基本的な考え方だ。

2011年7月には東京慈恵会医科大学の並木禎尚氏らが、中空の磁性カプセルを使ったガン治療用のドラッグデリバリーシステムの開発に成功している。このカプセルは網目状になっていて、薬剤が自由に出入りできる。内部に水溶性抗ガン剤を密封し磁気でカプセルを誘導したところ、抗ガン剤を単体で使うよりも100倍以上の効果があった。また、中空になっていない磁性ナノ粒子を使うより、5倍以上の薬剤を搭載することができた。

磁気ナノ粒子自体をガン細胞の攻撃に使う方法もある。韓国延世大学のJinwoo Cheon氏らは、磁性ナノ粒子をネズミのガン組織に注入。電磁場を作るコイルの中にネズミを置き、磁性ナノ粒子を発熱させることで、ガン細胞を死滅させることに成功した。

磁気を利用する方法としては、「エマルション」も可能性があるかもしれない。エマルション(乳剤ともいう)は、ある液体の中に、本来は混じり合わない別の液体が微細な粒子になって分散している混合物ことで、牛乳が代表的な例だ。英国ブリストル大学の研究チームは、錯体(金属と非金属の原子が結合した化合物)を含んだ特殊な界面活性剤(石けんや洗剤のように、水と油を混合させる働きを持った物質)を開発した。研究チームはこのエマルションを海上に流出した油の回収に使おうとしているが、今後、ドラッグデリバリーシステムに応用できる可能性もあるという。

英国ブリストル大学の研究チームが開発したエマルションの写真
[写真] 英国ブリストル大学の研究チームが開発したエマルション。磁石を使って誘導できる。

photo credit :University of Bristol

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