No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
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DNAでできたナノロボットが薬を運ぶ

ナノサイズのロボットに薬を運ばせようとしている研究者もいる。ハーバード大学Shawn Douglas博士らが開発したのは、「DNA折り紙」を利用したナノロボットだ。DNA折り紙というのは、DNAの螺旋構造を加工して、2次元や3次元の複雑な構造を作り出す技術を指す。冗談のように聞こえるかもしれないが、英語表記でも"DNA origami"だ。

DNA折り紙によって作られた二枚貝状のナノロボットの写真
[写真] DNA折り紙によって作られた二枚貝状のナノロボット。図はカギが外れた状態である。
IMAGE CREATED BY CAMPBELL STRONG, SHAWN DOUGLAS, & GAËL MCGILL USING MOLECULAR MAYA & CADNANO

Douglas博士らが作成したナノロボットは、一辺が35ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)程度の二枚貝のような形状をしており、中に薬品を格納できるようになっている。そして、ポイントはこの二枚貝にアプタマーという仕組みでカギが掛けられていること。アプタマーとは特定の分子とだけ結合する分子構造で、このナノロボットが特定の分子と出会ったら、カギが外れて中に入っていた薬品が放出されるのだ。

研究チームは、白血病細胞の表面にある分子をアプタマーとしてナノロボットを設計し、中に白血病細胞を破壊する薬を入れた。数百万のナノロボットを白血病患者に注入したところ、3日後には白血病細胞が半減、正常な細胞への影響がないことがわかった。Douglas博士らは、ナノロボットに別の格納庫を作って別の薬を入れられるようにすることも検討しているという。

体内を「泳いで」進むマイクロスケールのロボットも検討されている。マイクロスケールの世界では表面張力が支配的になり、マイクロロボットにとって水はまるでハチミツのような粘度を持った物質なるが、ジョージア工科大学のHassan Masoud博士らは、その中を泳げるロボットのコンピュータモデルを作成した。このマイクロロボットは全長10マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)ほどで、本体の側面に2枚の固定推進翼、前方に方向転換用の舵がついている。温度変化や電磁場の変化を受けて本体が収縮したり膨張したりすると、それが推進力となる。前方の舵は光や磁気を受けて曲がり、これで本体の進む方向を制御する。マイクロロボット本体の材質は、ヒドロゲル(水が主成分のゲル)が使われることになるという。このマイクロロボットも、ドラッグデリバリーシステムに利用できる可能性がある。

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