No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
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このプラットフォームに連携する様々なサービスがあるが、その1つとしてMyMedLabがある。

プラットフォームに連携する様々なサービス”MyMedLab”の写真

MyMedLabを通して、ユーザーは病院に行くことなく、検査機関(研究所など)に直接検査を依頼することができる。結果のデータはインターネットを介して直接ユーザーの元へ届き、かつそのデータはHealthVaultに保存される。病院が一手に担っていた検査機能が、MyMedLabを通じて別の専門機関にアウトソースされることになるのだ。このサービスを指揮したのはスコット・シュリーブ医師。シュリーブ医師は、オープンソースの医療情報プラットフォームである"Crossover Health"の開発にも従事し、Health2.0ムーブメントの牽引役としても重要な人物である。

ちなみにこのHealthVaultのライバルとして同時期に登場したが、2012年1月に閉鎖したヘルスケアサービスが"Google Health"。Googleのヘルスケア関連サービスとして注目を集めたが、ユーザー数が伸び悩み閉鎖。Google Healthを立ち上げたアダム・ボズワース(Adam Bosworth)は、うまく行かなかった理由について、「人びとがやりたいことは何か、を考えなかったから」と答えている。人はデータをただ保存するだけではなく、そこに楽しさを求めているのだ、とも語っている。

そしてGoogleを退社したボズワースは、新たに"keas"というWebサービスを立ち上げた。

Googleを退社したボズワースが立ち上げたWebサービス”keas”の写真

HealthVaultとも連携しているkeasは、ユーザーのヘルスデータを分析して、最適なヘルスケアプログラムを、ゲーム仕立て提供するというもの。ここ1—2年のWebのトレンドの1つであるゲーミフィケーション*3を取り入れた医療サービスとして注目を集めている。

この他にも、薬情報サイト、疾患情報サイト、患者コミュニティSNS、医療関係者SNS、健康器具と連携したヘルスケア推進サービスなど、医療・ヘルスケア関連Webサービスは続々と登場している。多くのサービスは、単体で稼働するのではなく、他のサービスの機能やデータとの連携をすることで、ユーザーと医療関係者の利便性を高め、医療の品質向上とコスト削減に資するように設計されている。こうしてWeb上に集積したデータをどのように利用し、ユーザーに価値を提供していくかが、現在の医療ITの最前線で起こっている戦いである。

巨大な資金が投入され、政府と民間が両輪で進めているこの医療改革は、すでにHealth2.0という言葉を大きく越え、アメリカという巨大な国家の社会設計の根幹を作りかえていく途上であると言っても言い過ぎではないだろう。翻って日本はどうだろうか。

日本の医療ITのこれから

政府の強力な主導と市場への活発な投資により、変革をすすめているアメリカの医療IT事情に比べて、日本はまだまだこれからといった状況にある。2001年のe-Japan戦略Ⅰで「保健IT化に関するグランドデザイン」が示され、2003年のe-Japan戦略ⅠⅠでは、IT利活用重視七分野の最初に医療が掲げられた。2005年の医療制度改革大綱 、2006年のIT新改革戦略、2007年の重点計画2007でも、医療のIT化を多方面から推進する指針が示され、今年野田政権が提出した新成長戦略では、ITによる医療の変革が項目に上がっている。

こうした方向性の中で、具体的に求められているのは、次のような医療ITの姿である。1つは、これまで医者という専門家の手によって"治す"ものであった疾患を、患者自身が予防し、健康管理を個人が担えるよう、ITによってサポートすることである。医療費抑制のための業務効率化と無駄の削減、質の向上も必須と考えられる。ITの活用により、データの共有や知見の共有が行われ、コスト削減と質の高い医療の提供が期待されているのだ。そして、もう1つは、地域医療の崩壊をストップするための、地域単位での統合医療体制である。

アメリカのオバマ政権が行ったような強力なイニシアチブでこの変革を進めていくことは、日本の現状ではなかなか難しい部分もあるかと思う。しかし、診療内容が記載されている医療費の明細であるレセプトのオンライン化と電子カルテの共通化、国民マイナンバー制の推進、離島や地域で検証と実証が進んでいるITとWebを活用した地域医療の再編成などは、着実に実を結び、日本国民の健康と幸福に資するために一歩ずつ進んでいる。

様々な問題を抱えつつも、日本の医療は、アメリカのすさまじい医療格差に比べれば、はるかに国民全般に質の高い医療を提供している。国の指針と民間の努力で、現在の困難な状況を打破していく方向性を期待したい。

[ 脚注 ]

*1
参考資料http://www.tohoku.ac.jp/japanese/press_release/pdf2008/20080508.pdf
http://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/130_6/pdf/805.pdf
*2
コンティニュアス規格:ITベンダーや家電機器メーカーなどが参画している、ヘルスケアデバイスのデータ規格。
*3
ゲーミフィケーション:ユーザーの体験やインターフェイス等に、ゲームの手法や仕組みを取り入れるデザイン手法。

Writer

淵上 周平

1974年神奈川県生まれ。中央大学総合政策学部にて宗教人類学を専攻。
編集/ウェブ・プロデュースを主要業務とする株式会社シンコ代表取締役。

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