No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
Laboratolies

美とは何か、アートとテクノロジーから追う

TM ── アートとテクノロジーを融合させる必要性について、研究の方針と絡めてさらに聞かせていただけますか。

土佐 ── まず歴史上、今日まで残ってきた文化芸術遺産の多くは、当時の最新技術でつくられたものだと考えています。ピラミッドにしても、奈良の大仏にしてもそうですよね。私は自分のやった仕事を後世に残すには、現在の最先端テクノロジーで行う必要がある、というコンセプトでやっています。

私の創造力はテクノロジーからインスパイアされることが多いのです。博士課程だった1990年代はアートAI、当時はニューラルネットワークなどと呼ばれていましたが、そうした人工知能に感情を取り入れ、さらにCGを組み合わせました。この作品は「ニューロベイビー」という、人間の声の抑揚から感情を読み取るCGキャラクターで、リアルタイムに感情出力をするAIでした。1993年のアルスエレクトロニカという国際イベントで人工生命という特集があり、私はそこに招待されています。

[動画3] 人間の声の抑揚をから感情を読み取る「ニューロベイビー」

土佐 ── 本当はもっと大人のAIをつくりたかったのですが、当時の技術では追いつかず、まずはシンプルな赤ちゃんの感情表現にしました。しかし、AIが感情を読み取るというのは難しいものです。人間は経験と知識から直感的に飛躍できるのですが、それができない。さらに声を認識するのも難しかったですね。特定話者だと90%の認識率があったのですが、不特定話者の場合には65%ぐらいになってしまう。もっとも今なら、ディープラーニングでやれば別の結果が出ると思っています。

しかし、私はロボットをつくりたいわけではなく、自ら研究したいのは「アートを中核とした脳科学の反応」です。つまり、脳の中で「美」をどう見ているのか。それをAIに学習させ、制作へ効果的に生かせるアートAIをつくっていきたいと考えています。

TM ── 武蔵野美術大学からATR(国際電気通信基礎技術研究所)の研究員に転身されたきっかけは、どういうことだったのですか。

土佐 ── ニューロベイビー以降の研究をさらに進めるために、美術大学では限界があると感じたからですね。この後は、1対1のインタラクションではなく、感情認識や音声認識を多人数でやったらどうなるのかという研究に入りました。感性を媒介としたインタラクティブ技術を研究しようと、吉本興業と一緒に漫才の突っ込み役専門のAIも研究しました。1年で成果を求められるので、あの頃は必死でいろいろやりましたね。

しかし、研究を進めるうちにわかったのが、人はついコンピュータに嘘をついたり、試したりしてしまうということ。例えば、悲しくなくても悲しそうな声を出すとか。そういうインタラクションは不自然だと思い始めて、もっと本当の部分でインタラクションができないか、意図せずにふっとやることをセンシングしなくては、と思うようになりました。

[動画4] マーメイドがカップルのコミュニケーションを代理するインタラクション「無意識の流れ」

CGの国際会議であるシーグラフ(SIGGRAPH)に出展したのが、カップルのコミュニケーション代理人を担うマーメイドのインタラクションでした。このインタラクションは、血流や心拍、心理学的な見地からの身体距離などを見ています。この頃から「無意識の流れ」というものに関心が向くようになりました。

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