No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載02 電脳設計者の天才的な設計
Series Report

CADは、人間の手間を省力化する手段である。昔は紙に書いていた設計図をコンピュータ上のデータに移し、修正の容易化や設計結果の再利用、複数設計者との共有、生産用データとの整合性維持を実現するものだ。これは、原稿用紙に書いていた文章を、ワープロで書くようになったのと大差はない。設計の主役は、あくまでも人間である。

CAEは、試作しないと分からなかった設計の成果を予測する手段、つまりシミュレーションである。モノの形を3次元モデルで表現し、これに様々な物理法則がどのように作用するかを計算して、どのような性能が実現できたのかを検証する。設計結果の妥当性を試作して確かめると、相応の製作時間とコストが掛かる。自動車の試作などでは、1台当たり数千万円もの費用が掛かるため、様々な設計案を試したくても、気軽に試すことができない。コンピュータ上で、設計の成果が判断できれば、何百、何千もの設計案の中からより良い解を選び出すことができる。当然、設計品質が向上すると共に、製品の開発期間も短縮できる。ただし、CAEに関しても、設計するのは人間であることには変わりはない。

ところが、電脳設計者は、コンピュータ自身が創造的にアイデアを生み出す点では大きく異なる。このことは、電脳設計者が設計したモノの構造を見れば一目瞭然だ。「人間では考えつかないほど緻密で複雑」「内部に不可解な形の空洞がある」「なぜか人工物とは違う生物的な印象」の設計に仕上がっているからだ。人間が違和感を想起する設計結果でありながら、なぜか人間が設計したモノよりも要求条件をより良く満たしている。これは、電脳設計者が人間の設計者の踏み込めない領域で作業していることを如実に物語っている。

電脳設計者にセンスなし、あるのは豪腕のみ

人間が踏み込めない領域にある、人間では見つけられない解をコンピュータが導き出していると聞くと、「今流行の人工知能の仕事か」と感じる人も多いだろう。しかし現在、実用化されている電脳設計者は、従来のCADやCAEの延長線上の技術で作られている。

詳しい技術は、第2回で紹介したいと思うが、一言で言えば、CAEをフル稼働させて、無数の設計条件の効果をしらみつぶしに検証しているのである。3次元CADの中で表現したモデルは、自由に編集できる。最初に設計のベースとなる形を入れておけば、後はコンピュータが縦・横・奥行きなどの値を変えたり、穴を空けたり、平面を曲面にしたりと、無数の設計案を作り出す。そして、その1つひとつの設計結果をCAEで検証して、結果を比較して最適解を選び出す。まさに力業だ。

そもそも、設計という作業が高度な仕事だった理由は、無数の設計案の中からより良い解に近いものを抽出するのに、常人離れした勘と経験とセンスが求められていた点にある。何も考えずに膨大な設計案を試作する方法では、時間やコストが無尽蔵に掛かってしまう。いかに少ない試行錯誤でより良い解を見つけるかが、設計者の腕の見せ所だったのだ。しかし、無数の設計案の検証が許されてしまうと、設計者の勘や経験、センスは無力である。

実は、半導体集積回路や電気回路などの設計では、コンピュータの豪腕を頼りにした自動設計手法が1990年代から一般的に使われてきた。例えば、パソコンの頭脳部となるマイクロプロセッサは、1つのチップ上に数十億個のトランジスタを搭載し、そのそれぞれが複雑な配線で相互接続されている。とても人間の頭で設計出来るような代物ではない。人間の設計者が指定した設計条件や大まかな設計指針に沿って、電脳設計者が詳細を設計しないと、とても設計し切れないのだ(図3)。

半導体集積回路の設計で使われている自動配置配線ツール
[図3] 半導体集積回路の設計で使われている自動配置配線ツールの例
出典:Cadence Design Systems社のリリース

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.