No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載02 電脳設計者の天才的な設計
Series Report

第1回
見るからにただならぬ容貌の工業製品

 

  • 2017.6.30
  • 文/伊藤 元昭

近年、明らかに人間が生み出したモノとは思えない、異質な見た目の機械部品や道具が続々と登場している。これらは、コンピュータが人間の設計者に代わって自動設計したものである。驚くは、単に奇抜な見た目だけでなく、ベテラン設計者でも実現不可能な圧倒的性能向上も実現している点だ。設計は、ものづくりにおいて製品の価値を決める花形職種である。いまや日用品や家電製品、自動車から航空機まで、あらゆる工業製品の設計現場で、実務の担い手が「電脳設計者」へと変わりつつある。本連載では、第1回で電脳設計者が活躍し始めた背景とそのインパクトを、第2回では電脳設計者を生み出した技術を、第3回では電脳設計者の台頭が開く未来のものづくりの姿を解説する。

あらゆる工業製品の設計現場において、コンピュータを使った自動設計手法、いわば「電脳設計」が席巻し始めている。例えば、軽量化が至上命題の航空機の部品では、剛性を維持しながら一気に45%も軽量化し、ベテラン設計者が顔色を失うほどの圧倒的な成果を挙げている。その活躍の場は、ランプシェードやスケートボートなど、身の回りの日常品から人工衛星のアンテナの支柱のような極めて特殊な用途まで幅広い(図1)。

電脳設計者が設計した工業製品の例
[図1] 電脳設計者が設計した工業製品の例
コンピュータが設計した、剛性を保ちながら55%軽量化したスケートボード(左)と、地球観測衛星のアンテナの支柱(右)
出典:Altair Engineering社のホームページ

工業製品の開発において、設計とは、様々な要求条件を勘案して最適なモノの姿を追求する作業のことである。「体重100kgの人が乗っても壊れない耐久性」「1個当たり50円以下の生産コスト」「手持ちの工作機械を使って生産可能」「女性がかわいいと感じる見た目」といった多様な要求条件のバランスを取りながら、設計者の勘や経験、そしてセンスを頼りに試行錯誤を繰り返しながらより良い解を探り出していく。

通常、設計者に突きつけられる複数の要求条件の間には、「こちらを立てれば、あちらが立たず」のトレードオフの関係がある。こうした複数の条件同士の相関を考えながら、最適化を進める作業は「多目的最適化」と呼ばれている。電脳設計者による多目的最適化を扱う設計手法は、「コンピュテーショナル・デザイン」または「ジェネレーティブ・デザイン」「アルゴリズミック・デザイン」などと呼ばれている。人間が思いも及ばない可能性にも目配りして、より良い解を自動的に導き出すことができる設計手法である。

CADやCAEとは一線を画す

設計現場を席巻している電脳設計者は、「CAD(Computer Aided Design)」「CAE(Computer Aided Engineering)」など、コンピュータを使った従来の設計技術とは一線を画するものだ(図2)。

電脳設計者となるAutodesk社の設計ツール「Within」の画面
[図2] 電脳設計者が設計した工業製品の例
コンピュータが設計した、剛性を保ちながら55%軽量化したスケートボード(左)と、地球観測衛星のアンテナの支柱(右)
出典:Autodesk社

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