No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
Scientist Interview

── スポーツでは、インテル社が360度をカバーする多数のカメラをスタジアムに配置し、その映像を合成する装置を開発しました。すでにテニスの試合では、ボールのイン/アウトの判定に使われています。野球であればファウルかホームランかという微妙な判定にも使えそうです。遅延の少ない5G通信であれば、スマホでも360度のビデオ映像をリアルタイムで見ることができそうですね?

はい。スポーツ競技の微妙な判定に使われている360度カメラは、5Gトライアルサイトのパートナー企業でもあるパナソニックも開発しています。これはリアルタイムでVRを使うものです。目を近づけて見るVRでは、解像度が低いと酔ってしまうので、スマホでも高解像度が必要になります。

── 5Gの導入によって、スマホの画面がタブレットのように大きくなる傾向はあるのでしょうか?

大画面化は今でも行われているので、特に5Gから、という訳ではありません。5Gによって品質がどんどん上がってくるという感じですね。

── 先ほど挙がった建設機械だと、小松製作所がIoTを導入して建機を常にトラッキング(追跡)している例があります。建機において5Gは、どのような応用を考えているのでしょうか?

IoTで用いられるのは、いわば制御信号のようなデータ量の少ない通信ですから、それだけですと5Gのメリットはあまりありません。しかし非常に低遅延・高信頼が求められるケースには5Gが必要です。また、建設現場には、制御信号だけではなく現場の様子をビデオで送り、オフィスで見られるようにしたいという要望があります。これはコネクテッドカーにおいても同様で、現場の様子を高解像度ビデオ信号で送りたいという感じです。

── 4Kはテレビだけでは必然性に欠けると思っていましたが、5Gと組み合わされるようになると、テレビ放送以外の分野で4K映像の需要が高まりそうですね?

はい。こうした映像を撮って通信回線に上げるときにも大容量が必要になります。映像を送る度に、わざわざ固定回線につなぐのでは不便だからです。これまではネットワークを通じて映像データなどのコンテンツを配信するというダウンロードの応用が多かったのですが、5G時代には来場者ひとりひとりが自分で撮った映像などのコンテンツをアップロードして送る、つまり映像をアップするという方向でのサービスがこれから増えていくのではないかと考えています。

── ビデオをたくさん流すのが5Gのサービスというイメージですか?

それだけではありませんが、スタジアムなどでみんなが映像を撮ってアップするというサービスが大きなモチベーションになっていると思います。

高周波数のミリ波を使う最初の世代に

── 現在はいろいろ実験されているところでしょうが、その先はどうなりますか?

まずは今の5Gで規格を決め、ドコモとしては2020年の実用化に向けて着実に商用開発を進めていく必要があります。一方で、5Gはオリンピックイヤーである2020年に向けたものだけではありませんので、それ以降にどうやって発展させていくか、ということも重要です。特に、5Gはミリ波のような高周波数帯を使うという意味では第1世代のセルラー通信になります。実際に運用してみると問題が見つかってくるはずなので、それらの問題を解決していくことがこの先の発展につながります。

── これまでの携帯電話は、アナログの第1世代(1G)から始まり、デジタルの2G、より高速の3G、より大容量のLTE(4G)へと世代交替しながら発展してきましたが、5GはLTEと共存すると言われています。

はい。5Gの技術はLTEと共存しながら発展していくというコンセプトが基になっています。5Gで大きく変わる点は、周波数が急激に高くなるということです。これまでの携帯電話の世代交代では、TDMA(時分割多元接続)やCDMA(符合分割多元接続)方式からOFDM(直交周波数分割多重)方式へと、通信方式*3が変わってきましたが、5Gへの世代交代では周波数を一気に広げることになります。これが今までの世代交代との大きな違いです。そのため、サービスによる課題や、電波の伝搬による課題も違ってきます。さらに前世代のLTEと共存する前提というのも、今までにない違いです。

通信システムの進化
[図1] 通信システムの進化
CREDIT: NTT docomo

毎年スペインのバルセロナで開催されるMWC(Mobile World Congress)では、LEDの街灯を基地局にするアイデアや、マンホールの中に基地局を設置する試みなどが発表されています。

── そこら中に基地局ができて、スモールセル*4として機能するというイメージに見えるのですが。

容量を上げるためには、たくさん基地局を設置するのが手っ取り早く、そういう側面もあるのですが、必ずしもスモールセルの必要はありません。一方で、そのように多くのアンテナを設置する場合には、あらゆるところから端末をサポートすることができ、ミリ波のような高周波数帯での通信の安定度を向上することができます。5Gではミリ波だけではなく、4.5GHz、3.5GHzといったそれより低い周波数も候補になっています。通信速度はITUの規格では最大20Gbpsですが、周波数が低ければ周波数帯域幅をとれないので、そこまで高い通信速度を実現するのは困難になります.それでも4Gと比べて大きな速度差があれば、最大20Gbpsを満たさなくても5Gといえるでしょう。

[ 脚注 ]

*3
デジタル信号を乗せる通信方式をデジタル通信と言っています。どの方式とも全て、複数のユーザで同じ周波数を同時に利用することによって、回線の容量を増やします。アナログ方式だと1回線で1人しか使えませんでしたが、デジタル通信だと1回線で数人ないし数十人が同時に使うことができます。このためデジタル通信では、ユーザ数が多ければ多いほど、回線のトラフィックは効率よく使われることになります。TDMAは時分割で多重化、CDMAは拡散スペクトル方式の一種で、ある周波数帯域内で周波数の上から下まで複数のユーザが異なる符合(コード)を持ち多重化する方法、OFDMはキャリヤ周波数の上に狭帯域のサブキャリヤ周波数を互いに直交(0度、90度、180度、270度)とさせながらびっしり詰められる方式、それぞれデジタル通信方式の代2世代、第3世代、第4世代として変化してきました。
*4
スモールセル: 携帯電話基地局の種類の一つ。通常の基地局を補完するために用いられる小出力でカバー範囲の狭い基地局のこと。あるいは、そのような基地局がカバーする範囲。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.