No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
Scientist Interview

5G時代、技術とサービスを同時に開発

2017.09.30

岸山 祥久
(株式会社NTTドコモ G推進室 5G方式研究グループ 主任研究員)

最近、5Gという言葉がメディアに登場するようになった。5Gは高速・大容量に加えて、低遅延という特長のある、第5世代のモバイル通信のことだ。本コラムで、1年半前に5Gに関するインタビューを行った時点では、まだまだ先の見えない技術であった。しかし今では、5Gの標準化は進み、世界の通信オペレータは歩調を合わせながら開発を進めている。現在の5Gはどのフェーズまで来たのか、その技術をリードするNTTドコモに話を聞いた。

(インタビュー・文/津田建二)

5Gの歩み

── 最近、特に今年になって5G(第5世代のモバイル通信)が注目されるようになってきました。NTTドコモは通信業者として、以前から5Gに取り組んでおられましたが(参考資料1)、その主な歩みについて教えてください。

5Gを検討し始めたのは2010年ごろからです。2014年ごろからは5Gという言葉が一般にも語られるようになり、ここ最近は盛んに言われるようになっています。5Gは標準規格を決める3GPP(Third Generation Partnership Project)*1という団体で、いま規格を策定中ですが、2018年半ばには5Gの規格(リリース15)がリリースされる予定です。NTTドコモではその先2020年の実用化に向けてシステム開発やトライアルを進めています。

5Gに向けてNTTドコモでは、サービス提供の実験も進めていて、2017年5月から「5Gトライアルサイト」という5Gを体験できる実験環境を、東京のお台場とスカイツリー周辺に構築しています。例えば2017年8月4日〜6日には、フジテレビと共同で5Gを使った未来のステージともいうべきデモを行いました。AR(拡張現実:Augmented Reality)を使い、自分のスマートフォンをステージに向けると、ステージ上のアイドルと自分が一緒に踊っている様子をスマホに映すことができるのです。

── 海外でも5G実験は進められていますか?

アメリカの通信業者であるベライゾン社は、全米の13都市に5Gの試験環境を構築し、5G通信を使ったバスで様々な新サービスのデモンストレーションを行っています。中国でもIMT2020と称したプロジェクトで5Gの試験環境を作っています。韓国も平昌オリンピックを狙ってKT(Korea Telecom)社やSK Telecom社などがシステムトライアルを始めました。5Gは国内だけではなく世界的に実験が進められています。

新サービスに期待

── サービス面の開発も進めているのですか?

はい。サービス面では、さまざまな業界と連携していきたいと考えており、すでに自動車産業、鉄道、放送、建設機械、エンターテインメント業界とは、5Gを用いた共同実験やデモンストレーションでの協力を行っています。例えば鉄道の場合、大勢の乗客がスマートフォンでスムーズな動画を楽しめるようにするには、太い回線が必要です。その点、5GはITU(国際電気通信連合)で最大20Gbps*2が目標値として決められており、十分な速度だと言えるでしょう。放送業界とのコラボレーションでは、まだ技術検証の段階ですが、8Kのような高解像度の映像の伝送を試験しています。8K映像の伝送には大容量のデータが必要となるので、そのような映像を送るためにも5G通信が必要になるでしょう。

エンターテインメント業界では、VR(仮想現実:Virtual Reality)やARを使ったコンテンツが盛り上がり始めています。例えばゴルフのゲームでは、実際の風景を見るような感じを呼び起こすジオラマを使い、ゴルフ場の雰囲気を演出します。このゴルフ場の模型にスマートフォンをかざすと、AR技術によって画面の中にゴルフプレイヤーが出てきて様々な場所や角度からゴルフプレイの様子を観ることができる。そんなアプリケーションソフトをパートナー企業と開発しています。

岸山 祥久氏

[ 参考資料 ]

1
テレスコープマガジンNo.010|Expert Interview 「2020年、第5世代のモバイル通信目指す」(2016/03/31)

[ 脚注 ]

*1
3GPP: 3GPPは、アメリカならATIS、ヨーロッパならETSI、日本ならARIB(電波産業会)やTTC(情報通信技術委員会)、韓国ならTTAといった、世界各国の標準化団体により1998年に設立された。
*2
Gbps: Gbpsとはギガビット/秒の略で、1秒間に送れるデータ量をギガビットという単位で表したもの。

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