No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
連載01 オーガニックな電子機器が変える未来の生活
Series Report

存在感を消す最大の難問は電源の確保

ただし、有機エレクトロニクスを使って入出力素子の存在感を消すうえで、難問が1つ残っている。電源の確保である。有機物ベースであろうが、無機物ベースであろうが、電子システムである限り当然電源が必要になる。例え、どんなに装着感に優れたセンサが実用化されても、それを使うのに重たいバッテリが必要だったり、不格好な電源コードを取り付けたりする必要があるのでは、違和感たっぷりの機器になってしまう。

そこで、有機エレクトロニクスの特長に合う、フレキシブルなバッテリを開発する試みも着々と進められている。パナソニックは、厚さおよそ0.55mmのフレキシブル・リチウムイオン電池を開発した(図6)。独自開発のラミネート外装体と内部構造を採用し、曲げ半径25mmや、1000回の曲げ試験、ねじり角±25度/100mm、1000回のねじり試験にも耐えるという。また、米空軍研究所は、有機材料を使い、印刷技術で形成できるバッテリを作る技術を開発している。

フレキシブルな電池と印刷可能な電池
[図6] フレキシブルな電池と印刷可能な電池
出典:フレキシブル・リチウムイオン電池はパナソニックのニュースリリース、印刷可能なバッテリ用電極は米空軍研究所の資料

さらに、光や振動などをエネルギー源にして電力を得る技術や、無線給電を使って違和感のない電力供給を行う検討も進められている(図7)。

有機エレクトロニクス向けの電力を得る手段として、太陽電池の利用が実用的なレベルに達してきた。既に有機太陽電池は実用化しており、フレキシブルにしたり、印刷可能にしたりするための技術開発も進んでいる。そのほかには東京大学が、踏みつける力を電力に変えて動く万歩計を開発した。市販されている圧電フィルムであるPVDF(polyvinylidene difluoride:ポリフッ化ビニリデン)を丸めて発電素子を作り、これを靴の中敷きに敷き詰めるように並列に並べて、踏んで生じる振動で発電させる。

さらに同大学は、電力供給に無線給電を採用した、おむつでの尿漏れを検出するワイヤレス・センサシートも開発した。5cm×7cmの電力受信用コイルシートを、有機トランジスタで作ったセンサシートと共におむつの中に入れておき、装着者がはいているズボンの外に置いた電力送信用のコイルから給電する。このシステムでは、送電用コイルをデータ通信用にも利用している。

利用現場で発電、無線で給電
[図7] 利用現場で発電、無線で給電
出典:東京大学の資料

コンピュータのダウンサイジングによる、オフィスや家庭でのパソコンの普及。スマートフォンの登場による、個人が高度な情報機器を持ち歩く時代の到来。電子機器は技術の進歩によって、どんどん身近になってきている。有機エレクトロニクスは、人が電子機器の機能を常に身に着ける時代を開く、キーテクノロジーになることだろう。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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