No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Cross Talk

機械にクラウドソーシングを掛け合わせる

 

落合 ── 実際にはどんな具合に分析が進むのですか。

武田 ── 例えば、マーケットの動向や将来を調査しているメーカーの経営企画部の人たちがいるとしますよね。彼らの知見に則って、KIBITがロイターや日経CNBCのようなネット上の膨大なニュースをフィルタリングして集めると、大体10倍ぐらいデータ収集の効率が良くなります。その分、空いた時間で、人はデータ分析と考察に時間を割けるようになる。結果として全体的な生産性が上がるというわけです。

落合 ── 人間が雇用されている全ての機関が、本来こうした構造を持っていると意思決定プロセスも早くなるはずですね。大勢からの報告を、各々の視点で理解する従来型の方法とは異なる効率的な報告プロセスが、知識の摂取の仕方にあって然るべきです。

武田 ── 今までのテクノロジーの使い方だと、どうしても検索キーワードありきなので、情報が分断された状態で収集され、部分を積み上げて、それを総合していくことを全部やらなければいけませんでした。

私たちが取り組んでいるのはその分野のエキスパートが行なう情報処理の感覚を、ぶつ切りにではなく、大きな「全体的な知覚」として増幅してあげるようなイメージです。「何となくこの感覚だ」というものを人工知能に教えてやれば、必要な知識がゴソッと取れ、あとは人間が考えたり、決断していくといった活動に移せます。

落合 ── うちの学生にもよくサーベイをさせるんですが、サーベイさせた結果を溜めていくと同じような気分になってきます。要は「集合知を食う」みたいな感覚。その知識をおいしく教員がいただく(笑)みたいな感じです。

知識には、僕が摂取しやすい形というのがあって、それに則って学生からサーベイ結果を報告させると、実際に論文150本とか読まなくてもエッセンスだけいっぱい読める。そういうことを結構やってもらっていますね。その分、僕は考える時間に割ける。方法は違いますが、同じようなことをやっているんですね。

武田 ── 最近、チャットのインターフェースでサービスを提供する「チャットボット*2」が流行っていますが、あのシステムの裏側は100%が機械ではなく、人がクラウドソーシング的に入っています。人工知能学会の中で語られるテーマの中にも、機械と人がハイブリッドに扱われるものが含まれています。

ハイブリッドの仕組みをいかにスケール(増幅)させるか、より整合率を上げるために機械をどう使うのかという話も含めて、知能や人工知能の話題を広く捉えてもいいのではないかと思うんです。

ディープラーニングが急速に認知された理由

落合 ── KIBITの裏側は、どのように動いているんですか。

武田 ── 全部自分たちでアルゴリズムを最初から起こしました。その名前は「Landscaping(ランドスケイピング)」です。日本庭園を作るイメージからネーミングを考えたのですが、落合さんの著書(『魔法の世紀』)にも東洋と西洋の庭園の比較が出てきましたね。

落合 ── 東洋人と西洋人の庭の作り方は、まるで違いますから。例えば、我々が「噴水」に抱くイメージは、地下街にありそうなファンシーなものですけど、西洋人にとっては最古の動的建築の1つが噴水だから、結構不可侵領域らしい。だから東洋人がズカズカ入ってきて噴水を作ると怒られてしまうそうですよ。僕はメディアアートの教員なので、よく授業でそういう論を教えています。

武田 ── 日本庭園は小さい場所に自然を集約させています。それが、私たちの人工知能が持つアルゴリズムのテイストと非常に似ているんです。

KIBITのアルゴリズムは大きく集めて構築するものではなく、小さいところで、いかに「世界の完全性」を見出していくか、というアプローチなんです。

落合 ── 庭園に限らず、いろんな文化で西洋と東洋の違いはあるんですね。例えば、アメリカでロボットアームのようなものが開発されるとき、明らかに人間のコストを下げる「マシン」として作られます。

でも、日本では一緒に働くロボットアームに、名前を付けるんです。工場で働いている人が「カナコさん」とか呼ぶんですよ、ロボットアームのことを(笑)。あんなこと西洋人はしないですから。

武田 ── 物理的に動いている機械に対して日本人が感情移入するのは、興味深いです。人間の認識能力は優れていて、特に日本人は感情移入する力を駆使して、機械の個体差まで識別してしまう。これは面白い現象です。

落合 ── 欧米のようにオートメーションの領域はオートメーション、人間が働くところは人間がということじゃなく、日本人はオートメーションと人間がごっちゃになっていることに慣れている。だから、ロボットアームを擬人化し、その個体差まで捉えられるのでしょう。

昨今ディープラーニングという話題が急に認識されだしたのも「人工知能」という言葉で、機械がいきなり擬人化されたからだと思うんです。

武田 ── そうかもしれません。私たちの人工知能も、元々バーチャルデータサイエンティストという名称でした。ビッグデータ解析を自動でやってくれる役割という意味でしたが、なかなか人工知能の実体についてのイメージを持ってもらえなかった。ソフトウェアは物理的なものじゃないので、本来なかなか名前は付けませんから。

それで「KIBIT」という名前に変えて、固有性を直感できるものにしようと思ったのです。

落合 ── 人間っぽい名前にした。

武田 ── そうとも言えますね。するとみんなKIBIT、KIBITって呼び始めました。名前を覚えてもらえない頃に比べたら進歩ですが、それでもソフトはソフト、実体がありません。実体として理解してもらうためには、やはりハードが必要だろうと、さらに「Kibiro」というハードウェアに至りました。

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【写真:Kibiro】

落合 ── これは運動学習系のロボットではなく、言語学習系のロボットなんですね。対話型ですか?

武田 ── ええ、コミュニケーションロボットです。KIBITのコアの機能は、人間の判断力なり、好みなりを傾向分析して、それと同じような価値観のものを見つけて返すものです。

これはレコメンデーションに最適なんですね。ユーザーの好みを聞くときは、ある程度のインタラクティビティが必要となります。そのために対話システムも備えています。今後、自分たち自身でハードを突き詰めて考えていきたいと思い始めたのもあって、モノを作る落合さんの研究室に来るのが楽しみでした。

[ 脚注 ]

*2
チャットポット: 1人以上の人間とテキストまたは音声で知的な会話をすることをシミュレートするコンピュータプログラムのこと

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