No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Cross Talk
 

クローズドでパーソナルなデータの解析が鍵

武田 ── 人工知能の議論は、機械が人をどれだけ代替できるかみたいな話に終始していると思うんです。ただしこれからは「知能をどう扱うのか」という大きな話に、社会実装みたいな動きを含めて入っていくはずです。

落合 ── 確かに世の中でオジさんたちが怖がっている話題の半分は、インターネット革命のことを指していると思うんです。それはAmazon、Google、Facebookの登場時点で終了していて、人工知能革命ではありませんよ。

今後、本当の意味で人工知能革命が起きるとき、クローズドでパーソナルな言語データセットを扱えるかが重要ですよね。Facebookは、そこそこポスト数(個人から投稿されるデータの数)としては持っているはず。しかも、あれは半分オープンアクセスじゃないですか。Twitterも同じだから、回収しようと思えば回収できる。LINEは全然オープンアクセスじゃなくて、逆に多分アクセスしたら怒られるんじゃないかと思いますけど。そういえば最近猛烈にインドなどで流行っているTinder*6を見ると、恋愛もコミュニケーションとして機械に理解されてしまいそうですね。

武田 ── 私たちのエンジンは、そういうものの裏側に入っていく感じです。いわゆるFacebookなどのプラットフォーマーですね。そこでのウェブ経済は、パーソナルなものに落とし込もうとすると、経済性が合わない。ある一定のレベルで集約し、中央で集権的に管理しないといけないデータを扱っているのです。

でも、これから人の経験というのはもっと拡散され、パーソナライズされていくはずです。そうなると、ああいう大きなメディアなり組織が、B to Cで個人にサービスを提供するだけではなく、その中間にある、目的がはっきりとしたコミュニティ的な領域が注目されると思います。彼らが持っているデータにこそ、パーソナライズされたものがある。ただ、今はオープンに使えるデータというのがほとんどありません。

落合 ── そうですね。今のAmazon、Google、Facebookは全員に同じレシピで同じものを提供して、ユーザーから返ってきた「各々の同じようなデータ」がいっぱい並んでいる感じです。

比喩を出すなら、便利なファストフードが普及したところで、専門料理店の経験は違うという感じでしょうか。ファストフードですごい変わったハンバーガーを食べられるわけでなく、ハンバーガーはあくまでハンバーガーの味。でも、世の中には好きな料理や嫌いな料理、好みのワイン、苦手なワインなどがあります。それを提供するツールやサービスにはパーソナライズが要るから、人工知能の界隈ではそうしたデータの流通経路をつくることになるのだと思います。

後編のあらすじ

後編では、落合陽一さんが主宰する筑波大学デジタルネイチャー研究室の最新研究のほか、コンテンポラリーダンスから考える身体性、未来の人間の身体の形、2045年の社会、武田秀樹さんが開発を目指す新しい人工知能といった話題を展開しながら、二人の「人間観」が語られます。

[ 脚注 ]

*6
Tinder: 位置情報を活用した交流、出会い系のアプリ

Profile

落合 陽一(おちあい・よういち)

1987年東京生まれ。筑波大学図書館情報メディア系助教 デジタルネイチャー研究室主宰。博士(学際情報学)。

筑波大学情報学群情報メディア創成学類卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了、2015年より現職。

コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を越えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事している。

音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」が経済産業省「Innovative Technologies賞」受賞。その他国内外で受賞多数。2015年ワールドテクノロジーアワードのITハードウェア部門受賞。

2013年にはPixie Dust Technologies ,Inc. ジセカイ株式会社を創業した。

http://digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp

武田 秀樹(たけだ・ひでき)

1973年生まれ。株式会社FRONTEO執行役員CTO/行動情報科学研究所所長。

1996年早稲田大学を卒業。専攻は哲学。

複数のベンチャーで新規事業の立ち上げに参画後、2009年株式会社UBIC(現株式会社FRONTEO)入社。人の行動や思考パターンを解析する「行動科学」と、自然言語処理や機械学習などを駆使した「情報科学」を組み合わせた「行動情報科学(Behavior Informatics)」を提唱。人工知能を情報発見の分野に応用することを得意とする。

多彩なバックグランドを持つ研究者や開発者を集め、人工知能「KIBIT」の研究開発を指揮。不正調査や裁判の証拠発見での人工知能の適応に取り組み、世界に先駆けてアプリケーション開発に成功した。

言語処理学会、人工知能学会会員。

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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