No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Expert Interview

AIをもっと賢くするAGI、株取引に応用

2016.08.31

ベン・ゲーツェル(アイデア社 創業者・会長 チーフ・サイエンティスト)

AI(人工知能)を株式運用に利用する動きが活発になっている。米国ではすでにヘッジファンドがAIを利用し、1000分の1秒(ミリ秒)や100万分の1秒(マイクロ秒)を争う、超高速トレーディングが行われている。これらは「今が買い/売り」という売買のタイミングをAIが支援するもの。これに対して、香港をベースとするアイデア(Aidyia)社は、AIを使って、1週間先、あるいはひと月先の株価を予測する。そのために、従来のAIとは違い、AGI(人工汎用知能)と呼ぶ、AIよりも賢い新しいテクノロジを開発した。アイデア社の創業者・会長でありチーフ・サイエンティストであるベン・ゲーツェル(Ben Goertzel)氏は、AGIの研究に注力しており、株取引のアイデア社とは別に、AGIのロボット設計会社であるハンソン・ロボティクス(Hanson Robotics)社のチーフ・サイエンティストも務める。同氏にAGIの狙いについて聞いた。

(インタビュー・文/津田 建二)

AIを資産運用管理とロボットに生かす

──アイデア社の業務は何ですか

当社は、2011年創立で、ロボットと資産運用管理にAI(人工知能)を活用しています。ロボットは、香港サイエンスパーク(ニューテリトリ)のセンターに設置していますが、AIにより従来のものよりも人間の言葉を認識・理解し、かつ対話形式の話ができるロボットで、外見もまるで人間のようです。資産運用管理のほうでは、2016年2月にAIによるトレーディングシステムにメドをつけ、年末までに稼働させることを公表しました。

──最近、IoT(物のインターネット)が話題になっています。IoTの拡大を背景に、今後どのような分野でAIは活用されるようになるでしょうか。

私もIoTに関して研究してきましたが、IoTが様々な分野に応用されるのに合わせて、AIも様々な分野に使われるようになるでしょう。

今のAIを取り巻く状況は1980年のころのコンピュータのようです。コンピュータの歴史を振り返ると、1970年代のコンピュータは評価キットで組み立てていました。それが1980~81年にはボードコンピュータを買ってきて家庭でプログラムするようになり、その後コンピュータは様々な分野に少しずつ進出して、今ではあらゆるものに入り込むようになりました。

現在のAIの広がり方、活用のされ方は、ちょうど80年代のコンピュータに相当します。だから、AIの広まりはまだ始まったばかりといえます。コンピュータが全ての分野に使われるようになったのと同様に、AIもこれからあらゆる分野に使われるようになるでしょう。

当社でも、証券取引所の株の予測パターンを見て、アップルやGMなどの株の上がり下がりを見ている段階にすぎません。AIはまだほんの初期段階なのです。

──金融にAIをどう活用するのですか

金融市場において、コンピュータによる自動化は低速トレーディングから超高速トレーディングへと進んでいます。*11刻1秒を争う高速の取引が求められるようになっているからです。1ミリ秒からマイクロ秒(100万分の1秒)単位の高速の取引です。これに対しアイデア社のシステムは、むしろ低速トレーディングといえるでしょう。アイデア社は1週間先、1か月先の株価を予測しますので、マイクロ秒という速度は必要ありません。その代わり、このやり方には各分野の知識が重要となります。様々な分野のコンテクスト(文脈)を考慮に入れたアルゴリズム*2を使うため、世の中の現象をもっと理解する必要があるのです。

──自動運転でも最近は物体を認識する場合にAIが使われています

自動運転のビジョンプロセッシング(画像処理・映像処理技術)にもAIは使われます。この使われ方は、カメラに映った映像が何かを理解するものなので明確ですね。我々のロボットも物体認識だけではなく、起きている出来事を理解し、判断して知らせるという作業を行います。この作業には、言語を理解することも含まれます。

一方、資産運用管理のコンテクストでは、集積するデータはロボットとは異なります。知識ソースとして、価格バリューのデータ、ニュースデータ、経済データ、マクロ経済データ、企業の財務データなど異なる様々なデータを集め、理解しマネージします。

AIで重要なのはデータ

──これら多くのデータを使って、どのように収益をあげるのですか

アイデア社が資産運用管理で行っている製品サービスは、二つあります。一つは、直接的ですが、ファンドを設立して顧客の資産をヘッジファンドとして運用管理し、直接取引を運用することです。

もう一つは、情報を提供するサービスです。株情報の予測データをライセンス販売することや、企業戦略情報、運用積立方法、基本的な運用方法などを提供します。

──なぜAIが必要なのでしょうか

私のAIへのアプローチは、脳を真似て、その処理方法の詳細を追及するだけではありません。脳の状態を測定し、その情報を深く理解することも行っています。なぜなら脳は最高のインテリジェントシステムだからです。脳を理解するためにプラスチック製の人間の頭皮(ヘルメット状のかぶりものに電極を付けたもの)を3Dプリンターで作製しました。例えば写真を撮るときに人の脳は何を考えているのか、AIで表現するためにこの頭皮を利用しようと考えています。

かつて人間は、鳥の動作を真似て飛行機を生み出しましたが、ただ真似しただけではありません。鳥よりももっと優れたジェット飛行機を生み出しました。

同様にこれまで、人類はコンピュータのハードウエアとソフトウエアをどんどん改良し、優れたインテリジェントシステムを創り出しました。さらに脳がどのように働くのかをもっと知識を得て、認識のメカニズムを深く理解すれば、さらに優れたインテリジェントシステムができます。そのシステムを実現することができれば、ブレーンワークとコンピュータの両方を組み合わせて爆発的に優れたAIテクノロジが生まれます。

[ 脚注 ]

*1
金融業界ではインターネットを使って1ミリ秒を争う取引を高速トレーディング(ハイ・フリークエンシー取引)、それほどの緊急度を問わない取引を低速トレーディング(ロー・フリークエンシー取引)、と呼ぶことが多い。AIを使う株取引は、市場の動向を分析して注文を決めるシステムで、アルゴリズム取引とも言われる。
*2
アルゴリズムとは当初、コンピュータの計算方法のことを指していたが、そこから発展して、何かを行うときのやり方を指すこともある。

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