リスクに備えるだけでなく、
リスクを減らすパートナーへ
2016.09.30
人工知能の発展と普及は、様々な業界に影響を及ぼしていく。なかでも深層学習(ディープラーニング)によって、将来の予測がある程度可能になることは大きい。例えば、リスクを計算して契約を結び、万が一の際には保険金を払う保険会社にとって、未来が見渡せる社会では大きな転換点を迎えることになるかもしれない。アクサ生命の松田貴夫氏は、今後の保険業界ではビジネスモデルの変革が急速に進むと見ている。
リスク診断の意味が変わる
──今後伸びてくるであろう人工知能が、保険会社の活動にどう活かされるのでしょうか。
私たちは従来、保険金や給付金の「ペイヤー」という立場にありましたが、今後もそれでいいのかという議論があります。
保険会社というのは基本的にお客さまのリスクを引き受ける仕事ですが、近年ではリスクに対する最新の知識を消費者が得られる時代となっています。
例えば、遺伝子解析がそうであるように、これまでは保険料の設定は年齢や性別などを主な指標にしてきましたが、リスクの解析が進むことによって病気に対してリスキーな因子を持つ人、そうでない人といった個体差がわかる時代になってきました。
そうなると、保険会社ができることも変わってきます。生体データの蓄積やライフスタイルの分析などから「どうもこのお客さまは将来こんなリスクに直面する可能性が高い」と人工知能によって予測がなされるかもしれません。
極端な話では「半月以内に心筋梗塞になる可能性が高い」というお客さま対して、「最寄りで治療成績のいい病院と先生がここにいて、夜間の場合の搬送先はここがふさわしい」などとアドバイスできるようになる。リスクを把握してもらい、緊急時の備えができていればお客さまの命が助かるかもしれません。
──従来の保険会社像とはかなり異なりますね。
今までなら、亡くなられてしまったり、大きな後遺障害が残ってしまったり、健康的で幸せな生活が一変してしまった後に初めて保険金や給付金をお支払いしていました。いわば消極的な見守り役でしたが、これからはパートナーとして、より積極的にお客さまの人生設計に関われるような役割を担えるようになる。
アクサグループは「ペイヤーからパートナーへ」という言い方をするのですが、お客さまが豊かで、楽しく、健康的な時間を過ごしていただくためのパートナーに転ずるということです。
未来を見据え、お客さまの一歩先を見て支えていく。それによってお客さまのリスクを未然に防ぎ、健康になっていただくことが可能になるかもしれません。
──従来のペイヤーが提供するのがお金だけだったとすると、パートナー役はお金プラスそれ以上の価値を提供するのですね。それ以上の価値というのは、数値化やデータ化するのは難しいのでは。
自分が健康になればなるほどメリットがあるというインセンティブを示すことが必要になります。
健康になるための仕組みづくりで言うと、今、不健康だったり、健康にちょっと問題が出始めていたりする人の方が、効果は大きいのです。例えば、現状では運動をしていないという高齢者が軽い筋トレを始めると、それだけで要介護状態になるリスクが急激に下がるというデータがあります。
──保険料の設定についても変化はあるのでしょうか。
「年齢性別が同じでも個体差がある」ということをお客さま自身が認識するようになったら、それに応じたプライシングをしないと公平ではなくなります。そういう意味では、商品の値付けの方法も変わるでしょう。
健康になればなるほどリスクが減るわけですから、保険料が下がるとか、お金が返ってくるとか、あるいはスポーツクラブの無料会員権が支給されるとか。お客さまをより健康にしていくためのエコシステムを商品の中に組み込むという変革はあると思うのです。