No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載01 テクノロジーの進歩と共に交通事故死は減少
Series Report

LIDAR(ライダー)による測距技術

一部のクルマに搭載され始めたLIDAR(Light Detection and Ranging)技術は、クルマの周囲の物体との距離を常に測りながら、前に進む技術である。グーグルカーのトップルーフに付いている黒くてぐるぐる回っている装置(図5)がそれだ。この装置は、レーザーやLEDの光を発射し、その反射光を検出して、その位相差(発射した波と反射した波の位相の差)から距離を測定する。周囲にある光との干渉を防ぐため、数十MHzのパルスで光を変調するという手法を使うことも可能だ。例えば、同じように赤外線通信を利用しているテレビのリモコンと干渉する場合がある。その場合は正しい反射光ではなく、干渉された光の反射光となるため、正確な距離を得られない。そこで数十MHzのパルスを直流電圧(電流)に重ねて発射し、ある程度のパルスの数を数えて積分すると、パルスの数が積み重なってノイズ(周囲光)の影響を減らすことができる。

グーグルカーのルーフトップに載っている黒い装置がLIDARの図
[図5] グーグルカーのルーフトップに載っている黒い装置がLIDAR
出典:Google

LIDARは、車の屋根の上に設置されたレーダーを360回しながら、クルマの周囲にある物体との距離をリアルタイムで計算。装置には、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる超小型の反射板が利用されている。このLIDARシステムは、クルマだけではなく、ドローンのような無人飛行体やロボットなどの事故回避に応用できる。周囲の物体との距離を測定し、その距離がぶつかりそうな距離まで来たら、その物体から遠ざかるようにクルマのスピードを落とす。ドローンなら向きを変えて遠ざかるように自動的に調整するのだ。

安全技術はもっと身近な所から

他にも飲酒運転や、アクセルとブレーキの踏み間違い等の、人為的な問題も、エレクトロニクスで解決できる。日立製作所は、呼気でアルコールを検出すると、クルマのカギが回らずエンジンを始動できないような仕組みを提案している(参考資料1*1)。これは、キー側に呼気検出器を組み込み、クルマ側でアルコールを検知したキーは回さないようにする仕組み。キーの大きさはキーレスエントリとほぼ同じだ。

アクセルとブレーキの踏み間違いという問題に対しても、日産自動車やトヨタ自動車は取り組んでいる。クルマの前方に建物や壁などの障害物を検出すると、アクセルを踏んでもクルマが動かないような仕組みを導入している。逆にクルマの後方に障害物があれば、バックのアクセルを踏んでもクルマが動かないようにすることも可能である。

さらに、高齢者や病気持ちのドライバの事故を防ぐ等、社会問題に対処することもテクノロジーの観点から重要になる。逆走していることを検出しドライバに伝える、あるいはてんかんの発作や無呼吸症候群による意識の喪失などを検出する方法も、テクノロジーに期待が寄せられている。すでにドライバが目をつむったかどうか、意識があるかどうかの検出アルゴリズムの開発は始まっている。

次回は、これまで開発されてきた安全テクノロジーの事例を紹介。3回目では、これから市場に導入されていくであろう、安全開発技術を展望する。

[ 参考資料 ]

*1
1. スマートキー対応の呼気アルコール検出器の試作に成功
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2016/03/0324b.html

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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