No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Cross Talk

ダンスから考える人間の存在

落合 ── 今コンピュータというのは言語情報と視覚機能しか持っていませんが、社会全体の動態も含め、もう少しコンピュータを、運動機能として捉えられるようになると良いのかなと思っています。

武田 ── それらの研究は進んでいないんですか。

落合 ── モーションキャプチャには長い歴史がありますが、未だまだあまり成熟しているとは言えないんですよ。人間は筋肉しかうまく使えない生物なんですが、筋肉を通して世界を理解するという観点で考えると、タッチパネルはまだその機能が弱い。VRでやっと身体や筋肉を拡張する機能が入ってきた状況。だからまだ先に行けるところはあると思います。

最近うちで興味があるのは、ロボットを設計するためのアルゴリズムなんです。今までロボットというものは、専門のデザイナーが作っていたんですが、これからはロボット業界のPhotoshop*3がないとダメだと思っています。

気軽にロボットを作って、そこに体が入れるみたいなツールがもっと出てくるべきで、最近はその研究をしています。関節がすごいシンプルにできているけれど、ある程度人間の表現性を残している様なロボットには、とても興味がありますね。

武田 ── 身体表現は、身体という最初からある程度形が決まっている制限されたものに対して、振り付けを行います。これだけでも、グラフィックが持つ表現の自由度に比べて、ずいぶん異なるものですよね。しかし、その制限が、ダンスの表現に、視覚だけではない、象徴性や面白みを生んでいるのも確かです。そこを考慮すると、ロボットの動作もそれに似て面白いかも知れません。

落合 ── 身体言語をどの動きに変換するかっていうことですからね、面白いです。これはうちの学生がやっているVRパペットロボットで、人間がパペットの中に擬似的に入って観客にパフォーマンスしたり子どもをあやしたりするのに使おうという研究です。

 

例えば、おじいちゃんがこの体になっちゃって家にいるみたいな。このパペットと会話していると、すごい明るいディストピア感があるんですね(笑)。

武田 ── インタラクティビティは操っている人の側にあるものの、実際に見ているロボットに作用する動きがあるわけじゃないですか。自分で自分を振り付けしているような感じがして、面白い研究ですね。

落合 ── 実はこれをやっている男の子はダンスの研究もしている子で、どうやったら自分のダンスを身体の外から見られるかとか、どうやったらダンスを3Dプリンターのオブジェクトに変えられるかといった研究をずっとしているんです。

武田 ── 自分が行っている動作を理解できるのは、ダンスというものが芸術になりえたことの根源だと思いますね。

落合 ── ダンスって楽譜がなかなかないんですよ。そこが大変で、大体は動画を見て振り付けを覚えるとか、あとは直接習ったりするしかない。それを何とかして、形にできないかを研究しています。

人間の振る舞いを再現するには

落合 ── いわゆる人間の三次元の振る舞い、時間軸の振る舞いを映像で表現するのは難しいですね。バーチャルリアリティを利用できるようになってから、その難しさが、やっとわかってきました。自分が踊っている姿をずっと見ていると、よく分かるんです。

武田 ── 今後は、目的次第で異なった技術が使われるのでしょうね。VRゴーグルの中でダンス作品を疑似体験できるのはいいことですが、やはり、ステージ上で踊っているのを見ることとは、別の体験だと思うんです。リアルな場での体験には、バーチャルと別の気持ちよさが働いていると思うんです。

ダンスを技術で上演するなら、ホログラムやロボット等の方法がありますが、ステージ上に人間が自己投影できるような存在感があり、重量を感じられるようなものが必要になるでしょう。

そうなると音であったり、いろいろなモダリティ(ムード)の総合になってくるはずですが、それらが用意された上で、作品を作るところまで落とし込めるなら面白いと思います。

[ 脚注 ]

*3
Photoshop: アドビシステムズが販売している画像編集ソフトウェア。

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