No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Expert Interview

──なぜ香港にアイデア社を設立したのですか

最も多くのファンドが集まる金融の街ですから。昔、米ワシントンDCで仕事していた時、中国を何度も訪れ、厦門(アモイ)大学と研究でコラボレーションしたので、なじみがあるのです。それに香港は金融サービスの街として実績があります。さらに、ロボット開発にも力を注いでおり、周辺の深圳(しんせん)から東莞(とうかん)などの広東省に渡る地域に大きな製造拠点があります。だから香港でロボットや金融の事業を立ち上げたのはごく自然の成り行きでした。

ソフトウエアの開発に場所は関係ありません。今やどこにいてもコラボレーションできます。実際に我々のAIチームはそれぞれ小さいものですが、米国、欧州と一緒にインターネット上でコラボレーションしています。ロボット開発でも同様に世界中とコラボしており、エチオピアの首都アディスアベバのチームと一緒に開発しています。アディスアベバでは低コストでの開発が可能です。

日本でもAI開発は盛んになってきましたし、東京はとても高度なソフト開発の街です。また、金融市場では高速トレーディングが特に進展しています。しかし、高速トレーディングは、データを膨大に利用するAIはその真価を発揮できません。求められるアルゴリズムがとてもシンプルだからです。だからこそ将来に向けて、もっと深いAIが必要です。

日本経済は、低金利やマイナス金利など、世界から見ると変わった経済状況です。日本にはR&D(研究開発)に強いATR(国際電気通信基礎技術研究所)などの研究所があり、大学では大勢の優秀な人材が研究に携わっていますが、研究開発を製品に移すことが難しいようです。投資家が保守的で、資金をベンチャーに提供しません。これは、テクノロジの開発にリスクを取らないからでしょう。日本の若い人はアイデアがあるのに、投資家がお金を出さないという状況が続いています。

米国も中国もリスクは取ります。特にこの3〜4年、中国では多くのベンチャー起業が生まれ、テクノロジ企業への出資も増えています。中国の若い人たちは創造力があり、ベンチャーキャピタル(投資ファンド)は、新しい起業に賭けて投資するようになってきています。昔は西洋のコピーばかりでしたが、この状況が変わってきています。

ベンチャーのような新しい起業はギャンブルのようですが、香港でもリスクは取ります。私は、サイエンスパークでロボットを研究してきました。しかし、香港で研究開発費を得ることは難しいのです。ここでは早くお金にすることが求められるからです。

アイデア社は、投資管理会社であり、香港で数年間ロボットの研究も続けてきました。しかし、R&Dには時間がかかりますから、我々の投資家は、研究開発だけではなく実際にお金を稼がなければだめだと考え、AGIによる株運用ビジネスの立ち上げを公表しました。

 

AIをさらに賢くするAGI

──アイデア社のビジネスモデルは何ですか

2つあります。一つは、ファンドを立ち上げることです。そのためのトレーダー向けの資金を用意します。もう一つは、情報サービス提供です。ライセンス契約を結び、トレード情報、つまり株価の予測情報を加入者に提供します。今年末までにビジネスを立ち上げますが、今は開発したばかりで、まだ製品の前段階です。今年はAIが普及すると見ているので、立ち上げには良い機会だと思います。

最終目標は、すべての古い金融商品、サービスをAIに変えてしまうことです。成功すると5年後には、ヘッジファンドの市場で100〜200億ドルという金額を取り扱うことになっているかもしれません。

AIには、様々なインテリジェンスな可能性が含まれます。例えばAIは、ヒューマノイドロボットを可能にします。また、グローバルエコノミー(新産業構造)を理解できるようにすれば、より大きな影響を与えるようになるでしょう。グローバル経済は、様々なことに依存し合っているので、何か一つの事柄が起きると、すべてが関係し合い変化します。

人間の頭で全ての依存性を処理しようとしても複雑すぎて不可能です。いくら人間がビジュアルデータの取り扱いが得意だといっても、せいぜい6つや7つ程度の物体や出来事を関連付けて覚えることくらいしかできません。株式市場には恐ろしいくらいたくさんの数のデータがあります。人間の頭だけでは、これらの様々なデータを整理できません。だからAIで整理するのです。

AIは究極的には、世界中の金融データや経済データなどを集めて整理し理解します。今はまだ、集めたデータに対する判断は、人々(データサイエンティスト)が行います。それも全てが関連し合っているデータから判断を行います。まだデータ量が少ないから人間でもできるのです。

香港ではクルマの運転さえ、人間はうまくできません。ドライバーがクルマを運転しながらスマホを見たり電話をしたりしているからです。これがAIならインターネットにアクセスしてカメラで常時監視しながら運転できるので、むしろAIの方が安全かもしれません。

──アイデア社のAIの特徴は何ですか

学習アルゴリズムが優れている点です。私はAGI(汎用AI:Artificial General Intelligence)について長い間研究してきました。従来のAIを特化型AI(Narrow AI)と呼ぶことにすると、特化型AIは、一つのタスクしかできません。囲碁の名人に勝ったグーグルのAI・AlphaGoは囲碁だけに特化して学習したマシンです。囲碁以外の状況には対応できません。

AGIは、一つのタスクだけではなく、様々なタスクにも適応しながら変化・対応できるAIです。金融市場は2年ごとに体制が変わってきました。EUに加盟する国が少しずつ増えてきたからです。最近、英国が離脱しましたが、今後はギリシャ、フランスも離脱するかもしれません。5年前に英国はEUに加盟しました。こうした変化に対し、特化型AIでは対応が容易ではありません。今回の英国離脱でも、ユーロ対ドルの為替が大きく変わり大混乱が起きました。

これに対してAGIは、これまでのコンテクストを読んで時代がどう変わったかを理解します。これによって市場の体制が変わっても対応できるのです。

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