No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
Expert Interview

──それではAGIはコンテクストに強く依存するのですか

幅広いコンテクストにも依存します。時間軸の経過とともに、シチュエーションも取り入れます。

このことはほかの市場でも当てはまります。例えば、グーグルはアルファベット(Alphabet)というホールディング会社を設立、その下にグーグルや事業ごとの子会社がぶら下がる構造に変えました。米国ではあまりなじみがありませんが、アジアや日本ではホールディングカンパニーはよくあります。中国のアリババやテンセント社もホールディング会社にしています。

グーグルは、傘下にテクノロジ会社やソフトウエア会社を作るでしょう。そうすれば水平分業指向のように検索会社、ロボット会社、クルマ会社などがホールディングカンパニーの下にでき、特化型AIの集合体のようなものになります。AGIは、グーグルやアリババ、テンセント社の組織構造変化のコンテクストや企業戦略情報から、子会社が親会社にどのような影響を与え、経済にどう貢献するかを読み解くことができます。

アジアではホールディング会社の子会社同士は互いに競争し合っています。グーグルもアジア企業と同様に、ホールディング会社のもとに部品会社を作り互いに競争させるようにするかもしれません。

金融市場のAI研究の分野に、AGIを導入するとどうなるか。わが社では、専門会社のインテリジェンス(情報)ではなく汎用のインテリジェンス(情報)の導入を考え、アナロジー(類似性)や企業のコンテクストを分析して、今後の動きを予測する研究をしています。それによって、専門的な子会社の企業だけではなく、子会社を束ねたホールディングス的な親会社の今後の動きまで予測するのです。

AGIは特化型AIとのコラボレーションも可能です。短期的には特化型AIでも十分かもしれませんが、長期的にはAGIがもっと必要になると信じています。

技術のキモは多数の学習アルゴリズム

──AGIには様々なデータが必要なので解析が大変だと思いますが

データのサイズはそれほど問題ではありません。計算にはクラウドを利用すれば済みますから。それよりもアルゴリズムが大事です。どんな企業でも大量のデータを持っており、もっと多くのデータを解析し理解しなければなりません。

──そのAGIの賢いアルゴリズムを教えてください

一口に説明するのは難しいのですが、今のAIトレーディングはたいてい、予測モデルを一つしか持っていません。一つのモデルでトレードしていると、このモデルが陳腐化したとき、損をする可能性が出てきます。

そこで、我々は異なる学習アルゴリズムをたくさん持つようにしました。それぞれの学習アルゴリズムは、毎日の市場から集まるデータと履歴データを持っており、これを元に数千もの異なる予測モデルを作ります。

ある予測モデルを作る元になるのは、経済データであり、企業の株価と学習のレシオ(比率や割合)や、産業界のニュース、その国のGDP成長率などのデータから予測モデルを作ります。また、別の予測モデルを作る元になるのは、価格などの数字が上下するなど、様々な企業の各事業に関するデータといった具合です。

こうしたデータを、複数の異なるAIアルゴリズムで学習することによって、数千もの異なる予測モデルを持つようになります。その数千もの予測モデルを集め、プールに集積します。そしてそれぞれのグラフの毎日の特徴を元に、数千もの各モデルがそれぞれどのような予測状況かをまとめます。

──数千ものモデルを作るメリットは何ですか

もしも、予測モデルを1、2個しか持っていないとしたら、そのモデルにしがみつくしかありません。そのモデルがダメになったら、とたんに困ってしまうでしょう。しかし、数千の予測モデルを持っていれば、これは数千人のトレーダーを抱えているのと同じです。状況に応じて予測モデルを使い分けていけばよいのです。

ただし、この仕組みにも問題が一つあります。数千の予測モデルを集めておけば、正しいモデルだけとは限りません。中には間違っているモデルもあります。間違ったモデルを、見極める必要があるのです。

──AGIの学習アルゴリズムとは何ですか

我々は異なる6つの学習アルゴリズムを持っています。最も強力なアルゴリズムは、私が開発したオープンソースのAIシステムで、Open Calc(オープンカルク)と呼びます。これは、人間の思考過程に基づいて、モデルを作ったものです。Open Calc(オープンカルク)のアーキテクチャは、短期的な記憶部分と長期的な記憶部分、確率論的に理由づけを行なうエンジンを持ち、市場で現れた過去のパターンを見ながら分析します。

そのほかの特徴として、エボリューショナルプロセスをシミュレートするエボリューショナルラーニングがあります。これは数万の予測ルールの中から、ある尺度を使ってベストなモデルを選び、赤ちゃんを育てるようにその予測モデルを育てていくというものです。

特化型AIとAGIアルゴリズムの両方を持っていて、様々な異なるモデルを集め、予測できるようになっています。

──先ほど述べられた適応型の学習アルゴリズムについて聞かせてください

アダプテーション(適応)にはいくつかのレベルがあります。アルゴリズムそのものも状況に応じて学習します。アルゴリズムによって金を儲けるか損するかは、それらの学習状況によります。

一方、予測モデルを多数集める段階では、システムもアダプティブです。ここでは個々の学習アルゴリズムが様々なモデルを生み出し、重み付けされます。そのモデルが過去に金を儲けたものであれば、重み付けを高くします。このようにして儲けられるモデルを優先して学習していきます。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.