自動運転は駐車場から
クルマのクラウド利用は、AI以外の分野でも高まる可能性がある。例えばルネサスエレクトロニクスは、"自動運転車をパーキングに利用する"想定のクラウド活用システムを提案している。パーキングは公道ではないうえに、比較的複雑な判断が必要ないからだ。
ルネサスの提案は、パーキングの前に車を止めたら、後は自動運転で駐車すべき場所に移動するというもの。そのために、クルマがいない場所を自動的に探し出すシステムを構築。ここにクラウドを利用し、駐車場のどの場所が今空いているのかリアルタイムで管理する。クラウドとコンピュータが連絡を取り合って、空いている場所をクルマに伝え、クルマはGPSの助けを借りながらその場所にたどり着けるわけだ。
自動運転の世界では、クラウドの利用をはじめ、クルマは無線通信でインターネットとつながるようになり、利便性が向上する。例えば、これまでカーディーラーなどで行っていたECU(電子制御ユニット)のソフトウエアの更新が、インターネットを通じて自動更新できるようになる。
他にも、2018年4月から欧州で販売されるすべての新車に義務付けられるeCall(イーコール)サービス。これは、自動車が事故を起こしたときに、緊急通報センターに自動的に車両の位置や種類などを連絡する仕組みであり、クルマに通信機能が搭載されることになる。事故を起こしたドライバーの意識がなくても救急車が駆けつけることが可能になり、救える命を増やすことができる。
クルマのハッキング
ところが、安全・便利のはずのコネクテッドカーのリスクが最近露呈した。2015年7月21日の米Wiredのウェブページで紹介された記事によると、米国車「Jeep Cherokee」を使った実験で、クルマをパソコンで遠隔操作できることがわかった(参考資料1*1)。
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この実験は、Wiredのベテラン記者が2人のハッカーに依頼し、クルマを乗っ取れるかどうかを調べたもの。ドライバーは高速道路を走行中に、カーコンピュータのタッチスクリーンを操作できなくなり、エアコンの空気の口からは冷気が流入、座席の温度制御システムを通して衣服まで冷たくなった。さらにスピーカーからは最大ボリュームでパンクロック音楽が流れだし、ボリュームを回して音量を下げることができなくなった。挙句の果てに、フロントガラスのワイパーが勝手に動き出し、洗浄液まで出て窓を拭き始めた。
ドライバーはふつうに運転していただけなのに、こういった動作が勝手に始まったのである。最後には、ドライバーがアクセルを踏み続けているのにもかかわらず、ハッカーはパソコンからアクセルを遮断してクルマを止めた。これらはあくまでも実験ではあるが、クルマのM2M(マシンツーマシン)通信モジュール、そしてモバイルネットワークを経てインターネットとつながることで、クルマのコンピュータをハッキングできることがわかったのである。
クルマのコンピュータであるECU(電子制御ユニット)は、1台のクルマに何十個も搭載されている。アクセル動作に関係したECUやワイパー用のECU、インフォテインメント(車載情報)用のECU、エンジンを最適なタイミングで点火させ、有害ガスの排出を激減させると同時に燃費を改善させるECUなど、様々なECUがクルマの各所に分散配置されている。
インフォテインメント系(車載情報系)のECUは、制御系ECU(エンジン制御やボディ、車両系など)とつながり、クルマを加速、減速、停止させる。例えば、自動運転の自動ブレーキの場合、カメラやミリ波レーダーで前方の物体にぶつかりそうだと判断すると、ブレーキを掛けろという指令を制御系のECUに送り、ECUからブレーキパッドを締め付けるためのモーターが駆動し、止まることができる。