No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載01 クルマの安心・安全技術
Series Report
クルマのハッキング防止にインフォテインメント系(車載情報)と制御系(車載制御)との間にセキュアな壁を作っておく図
[図6] クルマのハッキング防止にインフォテインメント系(車載情報)と制御系(車載制御)との間にセキュアな壁を作っておく
出典:ルネサスエレクトロニクス

インフォテインメント系のECU部分は、周囲の交通渋滞情報や、死角となっている交差点での横方向のクルマの状況を知るために、無線やインターネットでつながる場合が多い。一方、制御系ECUはインターネットとつながっていない場合が多い。これは、情報系と制御系の間に安全な壁を作り、予め認証された情報しか制御系にアクセスできないようにしておくためだ(図6)。

セキュリティをクルマに組み込む技術はこれだけではない。さまざまな技術を整理して標準化しておく必要もある。クルマの安全性は「機能安全」という規格で安全レベルを規定しているが、セキュリティに関しては残念ながらまだ規定はない。もし各社バラバラにセキュリティを勝手に定義すれば、セキュリティシステムをゼロから組まなくてはならなくなる。

基本的にセキュリティは、IDとパスワードで管理されている。パソコンなどのコンピュータはIDとパスワードで起動するようになっているが、いったん起動してインターネットとつながると、サイバー攻撃者にパソコンソフトウエアOSの脆弱な部分を狙われる危険性が出てくる。同様にクルマもインターネットにつながったとたん狙われやすくなる。このためセキュリティをどう組み込み、規格化していくかが重要になる。

また、セキュリティを堅牢にすればするほど、使い勝手が悪くなる課題もある。例えば、家のカギを何種類も用意して多数の場所にカギをかければ不審者は家に侵入しづらくなる。しかし、家に入るために何本ものカギを開けなければならなくなる。コンピュータもいくつかの部屋に分類し、しっかり鍵をかける部屋とかけない部屋に分け、外部から見られてもそれほど問題にはならないような動作等にはカギをかけず、重要なデータをしまっておく場所にはカギをかけるという使い方が望まれる。

ソフトだけでなくハードでも安全に

セキュリティは、ID/パスワードというソフトウエアの仕組みだけでは心もとない。ハードウエア上でもセキュアにする方法が望まれている。マイクロプロセッサのARM社が開発したTrustZoneという考え方は、そのような考え方の一つだ。プロセッサの内部を二つに区切り、セキュアな部分とセキュアにしない部分を設けて、セキュアな部分にアクセスしたいときは予め登録されたIDのアクセスしか認めない、さらにパスワードも要求するという方式を取っている。

これまでのサイバー攻撃者は、IDとパスワードをスキャナーなどでしらみつぶしに走査しながら見つけてしまうというような方法をとってきた。時間をかければパスワードは見つけられてしまう。このためサイバー攻撃者と防御システムとは常にイタチごっこになっていた。

そこで、データを暗号化する防御システムが用いられるようになった。こうしておけばコンピュータに侵入され重要なデータを盗まれたとしても、暗号を解読するまでの時間を稼げる。ID/パスワードを見つけられるのに2~3年かかるとして、暗号を解読されるのにまた2~3年かかるとすれば、両方の防御システムを導入して4~5年おきにパスワードと暗号を変えれば、サイバー攻撃をかなり防ぐことができる。

クルマとクラウド間、V2Xなどの接続もセキュアにする必要がある図
[図7] クルマとクラウド間、V2Xなどの接続もセキュアにする必要がある
出典:Infineon Technologies

また、クルマだけではなく、クルマとつながるクラウドとの接続や道路等のインフラとの接続、他のクルマとの接続においても、セキュリティを強化する必要があるのだ(図7)。

今後、クルマはECU(電子制御ユニット)を用いた車内各所のつながりはもちろんのこと、車外の様々な環境やモノとのつながり、連携を高めていく。セキュリティ問題は、もはやコンピュータやスマートフォンだけの問題ではなく、今回、紹介したようなクルマや、さらには工業機器にまで深くかかわってくるだろう。そのためにも、まずは、セキュリティの基準や測定方法などの標準化作業を進めていかなくてはならないのだ。

[ 参考資料 ]

*1
1. Hackers Remotely Kill a Jeep on the Highway—With Me in It(2015/07/21)
https://www.wired.com/2015/07/hackers-remotely-kill-jeep-highway/

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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