LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

無理に太陽電池や電気自動車を導入しても、そこでの暮らし方がそれらを活かす素地があるかが重要で、家族構成や生活時間帯などももちろん影響します。また、個人単位にとどまらず、世帯内でどう行動を調整できるか、地区の中で相互にどう電気を融通できる可能性があるかということも影響してくるので、実は非常に奥の深い分析になります。
例えば、様々な生活行動パターンの人が混在して住んでいる地域の方が、ある人が電気が必要ない時、別の人がそれを使うという融通が利き、エネルギーの地産地消ができるということが分かってきました。一方、同じ生活行動パターンの住民が住んでいる地域は、世帯間で電力の有効活用ができないため、世帯当たりの太陽光発電の活用量は少なくなるのです。

左の大都市圏で中高層住宅が立ち並び同じ行動パターンの人が住むタイプより、右の地方都市の中高層、低層混在型住宅地タイプの様々な行動タイプの人が混在して住んでいる方が世帯当たりの余剰電力活用可能量が高い。
[写真] 左の大都市圏で中高層住宅が立ち並び同じ行動パターンの人が住むタイプより、右の地方都市の中高層、低層混在型住宅地タイプの様々な行動タイプの人が混在して住んでいる方が世帯当たりの余剰電力活用可能量が高い。

──エネルギーの地産地消に適した場所は、様々なタイプの住民や機能を混ぜた都市開発の方が、ふさわしいということでしょうか?

はい、その通りです。私たちは、そのような様々な用途が混ざる開発(ミクストユース)が、本当にエネルギー効率が良いのか、調査を実施しました。
結果としては、良いケースと悪いケースがあったのですが、良いケースは大都市の街中に、商店、住宅、オフィスがあって、皆さんがその間を歩いて利用される場合です。ところが、郊外で、複数のタイプの住民や機能を混ぜた都市開発を行っているエリアを観ると、かなりブロックが大きくて、商業、住宅ごとに分れている。そういうところは車で移動するので逆に環境負荷が悪くなります。エネルギーの地産地消を行うためには、歩いて移動できるスケール感の街が重要だいうことが統計的に見えてきました。

技術革新の進み方によって、スマート化に適した街は異なる

──スマートシティに適した街区の指標はありますか?

地域の余剰電力の有効活用量でランクを付けています。結果としては、混在している地区が上位にきて、高層住宅ばかりのところは上位に来ません。
それだけでなく、高速充電、蓄電池などの今後の技術革新を想定し、どういうタイプの住宅地が有利になるかという計算をしています。
そして、二千の住宅地を一三〇のタイプに分類しています。そこから用途地域(都市計画のエリア区分け)、人口密度、公共交通の利便性などの因子ごとに各種の技術革新が及ぶ影響の違いを検討しています。技術革新シナリオは五つ「太陽光パネル進化、EV(電気自動車)走行効率化、充電速度高速化、EV蓄電池容量増加、家庭用蓄電池の普及」です。

シナリオ 概要
a) 太陽光パネルの進化 太陽光パネルが進化することで、発電効率が向上し、今までと同じ日射量で太陽光発電量が2倍となる。
b) EV走行効率化 走行効率(エネルギー効率)が上がることで、今まで必要にしていた電力の1/2の量で同じ距離を走行可能になる。これによりEV走行可能距離も2倍になる。
c) 充電速度高速化 充電に使用する電圧が100Vから200Vに変化。蓄電池の進化による充電速度の上昇など今までと同じ充電時間で2倍の充電量を得ることが可能となる。
d) EV蓄電池容量増加 蓄電池のエネルギー密度向上により、今までと同じ大きさで容量が2倍の蓄電池がEVに搭載されることで、蓄電できる電力量や走行可能距離が2倍となる。
e) 家庭用蓄電池の普及 蓄電池の価格が下落することで、一家に一台家庭用の蓄電池を設置することが可能となる。
設置される蓄電池は容量が6kWhのものとする。EVと違い蓄電できる時間の制約を受けない。
[図表2] 住宅地に与える 五つの技術革新シナリオの概要

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