LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

木造密集住宅地がコンパクトシティだった!?

──スマートシティのキーワードである「サスティナブルな都市づくり」をどう捉えておられますか?

「サスティナブル」は元々は環境だけの議論でしたが、経済的持続可能性、社会的持続可能性もいれてトリプルボトムラインといわれています。その三つのどの議論から始めても誰もが「コンパクトシティ」にたどりつきます。
サスティナブルシティとコンパクトシティは完全に表裏一体の関係ですが、分野によっては定義が異なります。コンパクトシティの定義に関しては、イギリスでは、最初にエコロジストがこの言葉をつかいました。野生生物を保護するために都市はどうあればいいかという考え方です。また、建築家は人と人との触れ合いを前提とした心地よい人間居住空間のイメージで考えていることが多いようです。

私の場合は交通から考えています。自動車使用量がいかに少なくなるかをコンパクトシティの定義としています。具体的には、人口密度が高く、ガソリン消費量が少ないところをコンパクトシティに適していると設定し、日本の二千の住宅地に対して一人当たりの自動車環境負荷の低さをコンパクト度として割り出しました。

このコンパクト度の分析を通して、環境に優しい都市がどこなのかが見えてくるのですが、日本では意外な結果がでました。それは、東京、大阪、名古屋といった大都市の都心部に点在するいわゆる「木造密集住宅地」です。つまり、低所得者、高齢者、車も所有しない方が多く、家賃も安い。密集して住んでいて地震のときには非常に危ない住宅地です。そのような地区が数値的にはコンパクトで環境負荷が一番低い地域と割り出されたのです。しかし、そういう場所を将来、目指すのかと言われると、違うのではないかと思います。二十年、三十年先の住まい方・暮らしを想定し、その時にどこにどのようなコンパクトシティがつくられていればいいのか、人口全体の母集団がどう動いていくかを見ながらグランドデザインを描かないと、無駄なコンパクトシティがたくさんできてしまうと考えています。

──これからの人口減少時代にどういった場所に都市を集約していけばいいのでしょうか?

まず公共交通がしっかりしているところです。車に乗れなくなったときに重要なポイントです。また市街地が拡散していると維持管理コストが大きな負担になるので、しっかりと集約することが求められます。これらは都市計画を専門にしている人の共通の認識です。

中心市街地からの自動車撤退は、
公共交通の導入を徹底的に行わないと効果がでない。

──コンパクトシティでは中心市街地には自動車を入れない方がいいのでしょうか?

海外では中心市街地から自動車を上手に締め出した都市が活性化しています。しかし、そうしようとすると、日本では地元の人から、「商店街に車が来なくなるのはけしからん」という意見が出てくるため、合意をとるのが難しい現状です。

──欧米は日本に比べて市街地のサイズもコンパクトであったり、LRT(ライトレール・軽量軌道路面交通)が発達しているからでしょうか?

欧米と日本で都市の成り立ちが異なるからという説明がよくされますが、それだけで十分とは思えません。日本は何か変更を行う時の事前評価が厳密です。採用した時の効果や、事故を想定した警察の反対とか、やったときにこういうことが悪くなるのではないかというネガティブ思考なのです。フランスのストラスブールの場合は都心で自動車をうまく排除して、LRTを最優先しています。最初は反対も多かったのですが、ある程度説明がつけば半数ぐらいの反対者があっても導入してしまいます。効果測定もやっていません。みんながいいと言っているからいいんじゃないのか、というスタイルで、かなりいい加減といえるかもしれません。国によっても温度差があります。日本は本質的でない細かいところにうるさい傾向があり、細かいところを言っている間に踏み出せないで時間ばかり経過して、郊外化が進み、中心市街地が崩壊しています。

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