LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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スマートハウスは誰のためのものか

今後、スマートハウスはどういう方向に向かうのか?
エネルギーマネジメントが進化して、太陽光発電システムや充電池をさらに活用する方向に行くこと自体は間違いない。スマートメーター、あるいは京都大学 松山研究室のオンデマンド型ネットワークや、東京大学のデジタルグリッドなどによって、地域単位でのエネルギーマネジメントも進むだろう。
ただ、「無理なく節電できます」「エネルギーが効率的に使えます」というのが、未来型住宅の一番のセールスポイントというのは今一つピンと来ない。では、声やジェスチャーで家電や空調などをコントロールできる、いかにも未来的な家があるべき姿なのだろうか?
未来の家を考える上では、スマートフォンがヒントになりそうだ。スマートフォンはアプリを追加することで電話機以上の存在へと進化したが、それ以上に大きかったのは人のつながり方に変化をもたらしたことではないか。TwitterやFacebookといったソーシャルメディアはスマートフォンによって急速に拡大し、知り合いと近況を伝え合ったり、コンテンツを勧め合うといった新しいライフスタイルを生み出すことになった。ソーシャルメディアの起爆剤はスマートフォンであり、スマートフォンのキラーサービスはソーシャルメディアであったという見方もできる。

スマートハウスのキラーサービスも、人と人のつながりの中にヒントがあるのではないか?
今後、太陽光発電を始めとした分散型電源が普及していくのは確実だろうが、住宅間、地域間でのエネルギー融通の仕組みはコミュニティのあり方と不可分だ。電力を融通するのは、味噌や醤油の貸し借りとは違うにしても、コミュニティ内でエネルギー利用を効率化しようという動きは盛んになってくるだろう。
また、ライフスタイルの変化も住宅のあり方に大きな影響を与えることになりそうだ。総務省の家計調査によれば、2008年春をピークに持ち家率は低下する傾向にあるという。また、平成22年版の厚生労働白書によれば、2030年の生涯未婚率は男性で約30%、女性で約23%になると見込まれている。
サラリーマンのお父さんが一家の大黒柱となってマイホーム獲得を目指す……といったライフスタイルはもはや過去のものになりつつあり、賃貸住宅に住む独身世帯の増加が予想される。経済的、精神的な理由から、独身者同士で住宅をシェアすることも普通になってくるのではないか。
スマートハウスが対象とすべきも、両親と子どもの核家族ではなく、こうした独身者の共同世帯になるのかもしれない。
プライバシーは尊重しつつ、人とのつながりをさりげなくサポートする。例えば、寒い日には、住人がリビングに自然と集まるよう室温を調整したら、エネルギー効率とコミュニケーションの両面でメリットがありそうだ。住人の生活リズムの違いを家が認識して、同居人が寝ている時にはオーディオ機器の音量を上げすぎないよう調整したり、食材の使い回しをアドバイスしてくれたり、近所の人とのホームパーティをサポートしてくれたり。
もしかしたら、未来の家は、多くの人々が失いつつあったコミュニティを取り戻すヘルパーになってくれるのかもしれない。

Writer

山路達也

ライター/エディター。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『日本発!世界を変えるエコ技術』、『マグネシウム文明論』(共著)、『弾言』(共著)などがある。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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