No.002 人と技術はどうつながるのか?
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3Dインターフェースの必要性

実世界指向インターフェースは幅広い概念であり、さまざまなアプローチでの研究開発が行われているが、その中でも大きな革新といえるのがインターフェースの3D化である。GUIの普及によって、解像度の高いフルカラーディスプレイが一般的になり、映像や図形などの表現力は大きく向上したが、いくら解像度が上がり、表示色数が増えても、現実世界とは根本的に異なる点がある。それは、紙や写真と同じく、2次元(2D)での表現に限られるということだ。いうまでもなく現実世界は3次元(3D)であり、現実世界をそのまま表現するには、3D対応ディスプレイが必要になる。入力デバイスの代表であるキーボードやマウスも同様に2D的な入力しかできない。現実世界との関わりがそのままインターフェースとなる、実世界指向インターフェース環境の実現には、入力デバイスや出力デバイスも3D対応へと進化する必要があるのだ。

民生用に降りてきたモーションキャプチャデバイスが
インターフェースを変える

マウスやタッチパッドは、ポインティングデバイスの一種であり、2D平面上の1点を指定することが可能だ。タッチパッドやタッチパネルでは、複数の点の同時認識が可能なマルチタッチ対応製品が増えており、複数の指を使ったジェスチャー操作も可能だが、現実世界の3D空間の任意の点を指定することはできない。3D空間に対応した入力デバイスの例としては、モーションキャプチャデバイスが挙げられる。モーションキャプチャデバイスは、現実の人間や物体の動きをそのまま取り込めるデバイスであり、CG映画やゲームの制作などに使われてきた。以前のモーションキャプチャデバイスは、特殊なカメラを複数台利用する大がかりで高価な装置であり、個人が気軽に使えるようなものではなかった。

しかし、2010年11月にマイクロソフトから「Kinect for Xbox 360」(以下Kincet)が登場したことで、モーションキャプチャデバイスが、一気に身近なものになった。Kinectは、マイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox360」用周辺機器として開発されたもので、ジェスチャーや音声認識による体感的なゲームプレイを実現するシステムだ。Kinectの本体には、RGBカメラと深度センサー、マルチアレイマイク(複数のマイクを並べることで、入力音声の方向を検出できるシステム)が内蔵されており、前に立ったプレイヤーの位置や姿勢、顔、音声などの認識が可能だ。Kinectは、希望小売価格1万4800円という、モーションキャプチャデバイスとしては驚異的に安い値段を実現し、対応ゲームソフトも次々に登場したことで、予想を超えるペースで普及が進み、2011年3月には全世界での販売台数1000万台を突破。ギネス・ワールド・レコーズによって、家庭用電化製品端末として世界最速ペースの売り上げ(iPhoneやiPadを超えるペース)だと認定された。

[写真] Kinect for Xbox 360

Kinectは、接続インターフェースとしてUSB 2.0を採用していたため、Xbox 360だけでなく、PCでも使いたいという要望が生まれ、発売当初からユーザーによる解析が進められ、PCで利用するためのオープンソースのドライバが開発された。Kinectが、世界最速ペースでの売り上げを達成した理由の一つとして、ユーザーコミュニティによる開発の盛り上がりが挙げられる。オープンソースのドライバが開発されたことで、プログラミングの知識がある人なら、Kinectを使ったさまざまなPCアプリケーションを比較的容易に開発できるようになったためだ。開発者はそうしたアプリケーションをYouTubeなどで公開し、互いに競い合うことで、驚くべきペースで進化していった。マイクロソフトもそうした動きを容認しただけでなく、Windows向けのソフトウェア開発キット「Kinect for Windows SDK」のベータ版を公開。さらに、2012年2月にWindows PC用の「Kinect for Windows」を発売。Kinect for Windowsの登場により、PCでも正式にKinectが利用できるようになり、さまざまな応用が期待できる。Kinectは、業務用のモーションキャプチャデバイスに比べれば、キャプチャの精度や分解能は低いが、ジェスチャー操作の実現は十分可能だ。

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