No.002 人と技術はどうつながるのか?
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3D対応出力デバイスの中でも、特に注目が集まっているのが、3Dプリンタである。3Dプリンタは、その名の通り、3Dデータを元に立体物を造形する機器だ。以前の3Dプリンタは、安くても数百万円程度という高価な機器であり、個人で気軽に導入できるものではなかったが、ここ数年、十数万〜20万円程度という非常に低価格な製品が登場し、個人でも導入しやすくなった。こうした低価格な3Dプリンタは、パーソナル・ファブリケーションというムーブメントと密接な関係がある。パーソナル・ファブリケーションとは、MITメディアラボのN・ガーシェンフェルドらによって提唱された「コンピュータやネットワークを活用した個人によるものづくり」のことで、3Dプリンティングの技術を駆使することで、自分が欲しいハードウェアは自分で作ろうという試みでもある。その概念に基づき、RepRapと呼ばれる3Dプリンタ開発プロジェクトが誕生した。RepRapプロジェクトからいくつかの派生製品が産まれ、キットや完成品などの形で販売されている。RepRapプロジェクトは、オープンソースベースで開発されているため、世界中の愛好家達が日々ブラッシュアップを行い、改良されたものがネットで発表されているのだ。

こうした低価格な3Dプリンタは、線状の樹脂を熱で溶かし積層していくことで、立体物を造形する。低価格3Dプリンタの可能性にいち早く着目し、3年前に3Dプリンタキット「CupCake CNC」の国内販売を開始したホットプロシードの湯前氏は、「今でもイベントなどで展示をしていると珍しがられます。しかし、以前に比べて、コンシューマー向け3Dプリンタへの関心はましていると考えられます。海外ではDIY精神が根強いため一気に増えましたが、日本ではジワリジワリと盛り上がっています」と語る。3Dプリンタを個人で導入した人の使用目的としては、フィギュア作りやモデルガンのカスタマイズ、ロボット用部品作りなどが多いとのことだ。

また、個人向け3Dプリンタ市場は今後まだまだ伸びていくと、湯前氏は考えている。「個人向けの3Dプリンタは、まだ始まったばかりで、精度が工業用に近づいていきます。価格帯がどの辺に落ち着くのかにもよるとは思いますが、広まるのに数年はかかると思います。3Dデータを作成する必要がありますが、デジタルカメラで撮影した複数の画像から3Dデータを作れるソフトもできてきました。今後、スマートフォンのカメラも3D対応のものが増えてくると考えられます。そうすると、3Dで出力してみたいと考えるのは当然ですよね。近い将来、3Dプリンタが普及し、2Dプリンタと同じように気軽に使われる時代が来るのではないでしょうか」(湯前氏談)。

3Dプリンタの低価格化、高性能化が進めば、個人で3Dプリンタを所有せずとも、作成した3Dデータを低価格で立体造形してくれるようなサービスも出てくるだろう。低価格3Dプリンタは、これまで大企業が多額のコストをかけて実現していたものづくりを、再び個人の手に届くところに取り戻してくれる存在なのだ。ユーザーによるドライバやアプリケーションの開発が進められたKinectと同じく、個人向け3Dプリンタもオープンソースベースでの開発が普及に拍車をかけているのだ。ユーザーコミュニティによるフィードバックが、より良いものを作りあげる原動力となっており、Linuxの普及を思い起こさせる。

3Dインターフェースの普及が日常生活を変える

3Dインターフェースの普及は、日常生活を大きく変えることになるだろう。例えば、リビングの大型テレビに向かって、指でジェスチャー操作をすることで、電源を入れたり、チャンネルを変えるなど、まるでSF映画やアニメの中でしか見られなかったような、近未来感あふれる環境が実現する。テレビだけでなく、身のまわりのあらゆる家電が、ジェスチャーや音声認識で操作できるようになれば、リモコンを探し回る必要はなくなる。PCやスマートフォンなども、キーボードやタッチパネル、マウスなどから解放されることで、仕事や趣味のための道具から、自分専用のコンシェルジュとでもいうべき存在へと進化していく。

3D入力デバイスと3D出力デバイスの組み合わせは、さらなる可能性を秘めている。3Dディスプレイに表示される仮想的な粘土を3D空間の中でこねて、自由に立体物の造形を行い、それをそのまま3Dプリンタで出力することも、決して夢物語ではない。例えば、椅子や机など、デザイナーが用意した標準的な3Dモデルをダウンロードし、それをベースに自分の身長や体重にあわせてカスタマイズすることで、オーダーメイド商品を低コストかつ素早く手に入れることができるようになる。必要な時に必要なものを3Dプリンタで出力して実体化し、使わなくなったら素材をリサイクルする、より進んだオンデマンド-リサイクル社会が到来する日は、そう遠くないのだ。

Writer

石井英男

1970年生まれ。東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程卒業。
ライター歴20年。大学在学中より、PC雑誌のレビュー記事や書籍の執筆を開始し、大学院卒業後専業ライターとなる。得意分野は、ノートPCやモバイル機器、PC自作などのハードウェア系記事だが、広くサイエンス全般に関心がある。主に「週刊アスキー」や「ASCII.jp」、「PC Watch」などで記事を書いており、書籍やムックは共著を中心に十数冊。

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