No.002 人と技術はどうつながるのか?
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ミニマルデザインとしての日本のインターフェース

「見立て」に通ずる、最小限の工夫でリアリティを生み出す日本の独自技術とは?

  • 2012.08.10
  • 文/石井 英男

落語や俳句、茶道など、伝統的な日本文化には、本質的なものを見極め、それ以外のものをあえてそぎ落とすという考え方がある。日本人が開発したAR技術やインターフェース技術も、そうしたミニマルデザイン的な考え方に通じるものが多い。ここでは、そうしたいくつかの具体的な事例から、日本ならではのインターフェース技術を考えていきたい。

「見立て」や「わびさび」に象徴される日本の伝統的美意識

落語や俳句、茶道といった日本の伝統的な文化には、「見立て」や「わびさび」といった言葉に象徴される、「本質的なものを見極め、それ以外のものをあえてそぎ落とす」という考え方がある。落語では、小道具を多数用意せずに、扇子や手ぬぐいだけを使って、さまざまな情景を表す。例えば、扇子を閉じた状態で箸に見立てて、蕎麦をすすってみせたり、煙管に見立てて、煙管を吸ってみせたりといった具合だ。これを「見立て」と呼ぶが、この日本の伝統的な美意識は、欧米で1960年頃に登場し、広い分野に影響を与えたミニマリズムという考え方にも通じるところがある。

実は、日本人が開発したAR(オーギュメンテッドリアリティ:拡張現実)技術やインターフェース技術も、そうしたミニマルデザイン的な考え方に基づいたものが多いのだ。まずは、代表的な事例をいくつか紹介しよう。

タンジブルユーザーインターフェースの代表「ミュージックボトル」

ミニマルデザインを意識したユーザーインターフェースとして有名なのが、MITメディア・ラボの石井裕教授が1999年に発表した「ミュージックボトル」である。ガラス製のボトルをデジタル情報のコンテナおよびコントローラーとして利用することが特徴だ。フタを開けることで、音楽が再生され、フタを閉めることで再生が止まるという、シンプルなインターフェースであり、これまで液体などの入れ物として使われてきたボトルの役割とその形が示す使い方を、そのままデジタル世界へと拡張したものだ。つまり、ミュージックボトルは音楽の入れものであると同時に、音楽の再生・停止を制御するためのコントローラーにもなっているのだ。

石井教授は、実体のないデジタル情報に直接触れることができる、実世界指向的なインターフェース「タンジブルユーザーインターフェース」を提唱している。タンジブルユーザーインターフェースは、誰もが直感的に使えるインターフェースであり、ミュージックボトルはその代表的な実装例である。

[写真] 石井教授が開発した「ミュージックボトル」。通常のガラス製ボトルをデジタル情報のコンテナおよびコントローラーとして利用している

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