No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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理論

製造拠点を国内に置くことの意義

米国内への製造業回帰には、安価なエネルギーや人件費のほかにも、さまざまな要因がある。法人税率の引き下げを始めとする政府の施策はもちろんだが、米国の人口は2100年まで緩やかに増加し続けていくと推定されており、消費地としての魅力も大きい。

製造業のあり方が変化してきていることも要因として上げられるだろう。ドイツの経済学者アルフレッド・ウェーバー(1868-1958)の古典的な工場立地論では、輸送費と人件費が工場の立地を決定する大きな因子とみなされていた。完成品の重量に比べて、原材料の重量が大きいのであれば、原料の輸送コストの抑えられる原料供給地に工場を立地するのが有利。労働集約型の産業では、輸送費よりも人件費が重視され、安価な労働力の多い地域に立地することになる……といった具合である。

ところが、高付加価値の製品を作る製造業では、製造コストに占める輸送費や人件費の割合は相対的に小さくなっていく。これに対して、重要になるのが製造に関するノウハウだ。

高付加価値の製品を作るには、設計を自社で行って、製造を外部に発注すればよいというものではない。いかにして作るかというノウハウを持っていることが欠かせない。例えば、ゼネラル・エレクトリックは湯沸かし器の設計を米国内で行い、製造は中国で行っていた。この湯沸かし器の配管は複雑な構造をしていたが、ゼネラル・エレクトリックの設計担当者が自社の溶接工とともに設計を見直した。その結果、米国工場にて、中国で行っていた時の数分の1の時間で製造することを可能にし、製造コストを大幅に圧縮。中国で組み立てるより、低価格で販売できるようになった。さらに、品質管理が容易になり、製造から販売までの期間を短縮できるというメリットも生まれた。

日本企業でも、高付加価値品の生産を重視する企業は、国内生産にこだわる傾向が強い。単純に海外投資を増やすのではなく、国内外それぞれで適切に機能の分担を図ろうとしている。

戦略の一例がマザー工場だ。マザー工場というのは、最先端製品の製造や、製造プロセスのイノベーションを行うための製造拠点のこと。マザー工場をモデルにして、海外の各地に工場を展開しようという考え方だ。マザー工場の重要性は20年ほど前から唱えられていたものの、製造業各社の国内投資は減少傾向にあった。しかし、ホンダが一度凍結した埼玉の工場計画を再開するといった動きも出てきている。

半導体製造装置大手の東京エレクトロンは、半導体製造技術の開発は、国内・海外両方で行っているが、装置の製造は基本的に日本で行っている。これは、日本には先端技術を研究する大学などの機関や、高機能・高精度部材を供給するサプライヤーが揃っているからだという。

このほか、建設機械メーカーのコベルコ建機は、徹底した粉塵対策を施した日本の工場で製品を作ることにより、製品の不具合件数を数十分の1に低減。低振動の地下工場を国内に建設して、超精密な金型の製造を行っているサイベックコーポレーションのような例もある。

東京エレクトロン宮城本社工場の写真
[写真] 東京エレクトロン宮城本社工場
Credit:Tokyo Electron Limited

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