3Dプリンターで
建築を刷る
2013.10.23
コンピューターの中にあるデータを、通常の製造過程を経ずにそのまま立体物に印刷する3Dプリンターは今、大変な人気を集めている。趣味の小物作りから機械の部品まで、3Dプリンターが個人消費者から産業にいたるまで、多大な影響を与える兆しが感じられる。しかし、建物を3Dプリンターで印刷しようと考える人がいるだろうか。ましてや、そんなプリンターを作ろうとする人がいるのだろうか。
そんなことに挑んでいるのが、イタリア人のエンジニア、エンリコ・ディニ氏だ。
自然と融合するかたち・アーキネイチャー
──そもそも、建物を3Dプリントしようという発想はどのようにひらめいたのですか。
きっかけはMIT(マサチューセッツ工科大学)での研究を元に生まれたZコープ社製の3Dプリンターを目にしたことでした。それを使って友人の建築家のために建物の模型を作った。その時に、「これで本物の建築がプリントできるはずだ」と思ったのです。2004年のことでした。友人は「冗談だろ?」と言いましたけれどね。私は本気でした。そのひらめきがビジョンになり、そしてついにはコミットメントになった。私は、3Dプリンターで家を作ることを自分の運命だと感じるようになったのです。
──そこから、実際の3Dプリンターの製造が始まったわけですね。
最初の1年間ほどは、ロボットアームとエポキシ樹脂を用いてデモンストレーションをやっていました。しかし、1本のアームで建物をプリントするためには永遠に時間がかかる。それでここにあるような6メートル四方のプリンターを作ることになったのです。完成させるのに1年かかりました。資金は自分のアパートを担保に入れてローンを組み、貯金をつぎ込み、父からも援助をもらいました。普通ならば100万ユーロかかるような機械を、10万ユーロで作ったようなものです。リスクは大きく、まるで冒険に出かけるようなものでしたが、私は何年かかっても作り上げようと決めていました。もう狂気の沙汰です。
──そして、ここにあるのが世界最大の3Dプリンター「Dシェイプ」ですね。
基本的なしくみは、インクジェット・プリンターを巨大にしたものと考えればいいでしょう。6メートル四方のフレームの中に前後に移動するプリントヘッドが取り付けられており、それが砂を噴射し、その上に300個のノズルが結合剤を印刷する。そのレイヤーをひとつずつ重ねていきます。各レイヤーの厚みは5〜10ミリです。結合剤が印刷された部分だけが凝固し、後にまわりの砂を取り除くと3Dの形状が現れます。凝固するまで、まわりの砂は足場のような役割を果たして、その形状を支えるというわけです。砂はイタリアのドロミティ地方のものを原料にしていますが、苦労したのは結合剤です。混ぜるという作業ができるのならばセメントと水でも構いませんが、プリンターではそういうわけにもいきません。濃度が薄く値段も安いもので、プリントするだけで砂を固める素材は何か。専門家も訪ねたりして、最終的に行き着いたのは海水に近い、マグネシウムを基礎とした素材です。