No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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理論

次世代工場立地論

  • 2013.09.20
  • 文/山路 達也

人件費の安い地域へと移動していくのが、これまでの工場立地の傾向だった。しかし、近年、製造関連企業の米国回帰といった現象が起きている。その背景にあるのは何か。そして、3Dプリンターを始めとするデジタル技術は、製造業のあり方をどう変えていくのか?

製造業の米国回帰が進んでいる

先進国において製造業が存続していけるのかという論議は、第2次世界大戦以降、延々と続いている。工場が人件費の安い発展途上国へと移転していき、先進国内の製造業は空洞化していくのではないか……。

確かに、かつては日本のお家芸だったエレクトロニクスについていえば、台湾や中国の工場が世界を席巻している印象を受ける。iPhoneやiPadは米国内で設計されているが、実際の組み立ては中国の工場で行われている。FoxconnなどのEMS(Electronics Manufacturing Service:製造受託サービス)の成長はめざましい。

しかし、2011年頃から、先進国、特に米国への製造業回帰のメリットが語られるようになってきた。中でも注目を集めたのが、2011年に発表されたボストン・コンサルティング・グループの「Made in America, Again」という論文だ。この論文によると、中国での賃金上昇が急激なペースで進んでいることなどを理由として、今後5年間で世界的な製造業の再配置が起こる可能性を指摘している。

人件費以外の大きな要因として上げられるのは、シェール革命のインパクトだ。米国の多くの地域では、シェール層(頁岩層)に天然ガスが存在することはわかっていたが、コスト的に採算が取れないためほとんど利用されていなかった。2000年以降、頁岩(けつがん)に人工的な割れ目を作ってガスを採取する水圧破砕法が開発されたため、シェールガスを安価に生産することが可能になった。

2009年の発足以来、オバマ政権は、コンピュータやナノテクノロジーなどを活用する先進的な製造業を重視する姿勢を示していたが、2012年の大統領選挙では製造業での100万雇用創出を公約。2013年の一般教書演説で、国内製造業の支援を宣言している。

こうした状況を受け、実際に多くの製造業関連企業が米国内への投資を増やしている。エクソン・モービルやダウ・ケミカルは世界最大級の石油化学工場の新設を進めているし、鉄鋼業のヌーコアやUSスチールも追加投資を行っている。これらはシェール革命に直結した産業だが、それ以外に自動車やエレクトロニクス関連の企業の投資も多い。自動車については、フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ、フォルクスワーゲン、トヨタ自動車、日産自動車が工場への追加投資を行い、建設機械のキャタピラーはカナダや日本から米国へ生産を移管した。驚くべきは、米国回帰を進めている企業の中に、アップルも含まれていることだ。アップルのiPhone/iPadが中国で組み立てられているのは先述したが、プロ向けのハイエンドパソコンMac Proについては生産を中国から米国内に移管することを明言している。

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