No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Scientist Interview

──建物を屋外でプリントするということになると、このDシェイプを敷地に持っていくということになるわけですね。

Dシェイプは大掛かりな機械に見えますが、アルミニウム製で軽量にできています。トラックで運んで、現場で二人の作業員がハンマーで組み立てられるように考えられています。機械面でも電気面でも、簡単にアッセンブルや取り外しができます。また、平らでない場所では高低を調整する機能もある。

──現在は6メートル四方のフレームになっていますが、これはもっと大きなサイズにもなるのでしょうか。

サイズに制限はありません。フレームを大きくすれば、どんなサイズの自由形状もプリントが可能です。まわりの砂さえあれば、他の足場なしに大きなサイズも支えることができますから。ところで、最後にまわりの砂を取り除く作業が面倒なのですが、これを解決できないかと今、いろいろ考えているところです。たとえばポップコーンを使えばいいんじゃないかとか、ね。ポップコーンならば、かさが高くても軽量。しかも形状が出来上がった後は、動物に食べてもらえばいいでしょう。

──ここで見る限り、プリントされたものはオーガニックな形状のものがたくさんありますが、これは、そうした形状の方がふさわしいと判断された結果ですか。

Dシェイプが完成しようとする頃、どんな建物をプリントすべきかと悩みました。エンジニアの父に相談したところ、最初は「現実にある建築を小さくした模型を作ればいいじゃないか」と言ったのです。私は反論しました。「この技術を誤解している」とね。この3Dプリンターは、小規模であってもフルスケールの建物を作る機械なのです。だから模型では、その核心が通じない。そこからさらに考えて父が提案したのは、ルネッサンス期のもっともイノベーティブな建築とされるローマのサンピエトロ・モントリオ教会のテンピエットでした。トナート・ブラマンテが設計したこの小さな礼拝堂は、後世のさまざまな建築にインスピレーションを与えたものです。そこには、コンセプトが込められている。ただ、新しい技術を使うのに過去を向く必要はない。そこで、卵のような形状でオーガニックなかたちの開口部を持つガゼボ(東屋)のようなものを作りました。かたちは違っても、テンピエットが持つようなイノベーティブなコンセプトを受け継ごうとしました。

左:サンピエトロ・モントリオ教会のテンピエット。右:卵のようなかたちでオーガニックな開口部を持つガゼボ(東屋)。の写真
[写真] 左:サンピエトロ・モントリオ教会のテンピエット。右:卵のようなかたちでオーガニックな開口部を持つガゼボ(東屋)。

──現在の建設工法で建てようとすると、曲面がたくさんあってめんどうそうな建物ですね。

3Dプリンターならば、スポンジ構造のようなどんなに複雑な内部ジオメトリーを持った建物もボタンひとつで印刷できます。ただ、このガゼボが現れた時、表面のあまりのガタガタぶりに愕然としました。そして、何とか美しくしようと表面を磨いたりしたのです。2週間かけて磨いた結果、ツルリとした美しい建物ができました。しかし、その美しい表面は、実は見せかけにすぎません。私はそこから思案したのです。一体、このDシェイプというテクノロジーの本当の声に耳を傾けているだろうか、と。そうして出した結論が、もっと生な形状でいいのではないかということです。この機械を使ってそのまま出てくるのは、まるで岩が浸食されたようなかたちです。そうした自由形状が、Dシェイプには最適のものであるというのが結論です。それこそが、Dシェイプのテクノロジーを祝祭するにふさわしいかたちなのです。その形状を私は「アーキネイチャー(Archinature)」と呼んでいます。自然と融合するかたち。私は、家を作るために機械を生み出したのですが、その結果、海中で魚が住まうような岩の家ができた。そして、そうした形が、私が美しいと思うものにもなりました。これが私の発明のプロセスです。

Dシェイプが生み出す自然のかたちの「アーキネイチャー(Archinature)」の写真
[写真] Dシェイプが生み出す自然のかたちの「アーキネイチャー(Archinature)」。構造力学的な検討を加え、古代の洞窟のような建築を生み出すことをイメージしている。

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