No.008 特集:次世代マテリアル
連載01 身近な世界にまで広がり続ける半導体
Series Report

では、具体的にどのようにしてパソコンになったり、デジカメになったり、スマホになったりするのだろうか。デジタル回路の基本は全て図2の通りであるが、いろいろな電子機器に変える部分は、ROMにプログラムされるソフトウエアと、周辺回路の独自仕様回路である。他の部分のRAM、インタフェース、ストレージなどは独自機能ではない。汎用品である。プロセッサでさえ、携帯機器ならアーム社のCPUコア、パソコンやサーバならインテル社のプロセッサ(x86)、とほぼ決まってきたため、プロセッサももはや差別化要素ではなくなった。

これらのデジタル回路に加えて、人間が機器を動かす訳だから、人間即ちアナログとのインタフェースも必要であり、アナログ回路が必要になる。これらを加えたのが、図3である。

電子機器の基本回路ブロックの写真
[写真] 電子機器の基本回路ブロック

図3の黄色い部分がアナログ回路ブロックである。アナログ回路は、機器ごとに異なるため、同じ機器なら差別化すべき重要な回路となる。これに対して、青い部分で表示したデジタル回路は、今やROMに焼き込むソフトウエアと周辺回路のハードウエアだけが差別化要素となっている。

今や、ほとんどの電子機器や機械は、半導体、特に図3で表現できる基本回路で作り出すことができる。例えば、連載2「人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集」の第1回「ロボットの進化を支えるさまざまな半導体」で見られるロボットと人との対話を見てみよう。ロボットは人間の目に相当するイメージセンサ(カメラ)を備えており、まず人を映す。その形が人であり、かつAさんだと認識するまでに、人の形とAさんの写真をたくさんデータベースとして保存しておく。そして人間だと判断した後に、Aさんであることを認識する。Aさんの顔全体、髪形、まゆ、目、鼻、口、耳などの特徴をやはりデータベースに保存しておき、そのデータベースと写真で写った人と95%一致していればAさんだと認識する。

この場合の動作を図3で見てみよう。まずイメージセンサからのアナログデータをデジタルに変換し、青いデジタル回路に入力する。デジタル回路では、認識するための特徴を抽出するアルゴリズムをROMに焼き込み、データベースをストレージに保存している。写真データをストレージ内の人認識データと比較し、人だと判断した後、今度はAさんの特徴を保存したストレージ内のデータと比較する。これらは全て、デジタル回路内のバスと呼ばれる通信経路を伝わってやり取りされる。CPUは特徴が一致するかどうかを判断し、違っていれば、一つずつデータを繰り上げして逐次比較処理する。この作業を何千回、何万回と繰り返す。これらの比較・検討作業はデジタル回路で行い、Aさんのデータとほぼ一致していれば、Aさんだと認識する。Aさんが映っている画像を液晶ディスプレイで表示する場合は、最終的にドライバ回路を通して液晶へ出力する。

その後、ロボットが例えば「Aさん、おはようございます」というように設定する場合は、同様にこの文章に相当する言葉を保存しているストレージから読み出してくる。読みだした言葉(まだデータ)から音声を作り出す。この場合、音声合成のアルゴリズムをROMから読み出し、そのアルゴリズムに従ってCPUが命令と音を構成するデジタルデータを指示し、音データを出力し、A-D(アナログからデジタルへ)変換し、ドライバ、パワートランジスタを経由してスピーカーに送る。スピーカーは音に変換し、「Aさん、おはようございます」を出力する。

これらの例から、Aさんであることを認識する処理も、「Aさん、おはようございます」とスピーカーから言わせる処理も、基本的には図3の回路ブロックで行っている。もちろん、二つの回路基板で異なる処理を行ってもよいが、コストを削減する時は同じ基板で、別のアルゴリズムを少し大きな容量のメモリにためておく。このことはロボットだけにとどまらない。スマホで何かを検索したり、映像を見たり、する場合も図3の回路で行う。つまり、図3の回路ブロックによって、ロボットの制御回路もパソコンもスマホも全て成り立っているのだ。

つまり、まだ半導体を使っていない器具や機械があれば、それ以上の機能を、半導体を使った図3の回路で実現できるのである。半導体がさまざまな分野にどんどん広がっていく理由は、ここにある。

では、今後の社会生活に半導体はどのように広がっていくのか。例えば、健康管理や社会をもっと安全に、安心して暮らせるようなシステムの提供について、半導体を使って実現できる近未来の生活像を次回のレポートで紹介する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.