No.008 特集:次世代マテリアル
連載01 身近な世界にまで広がり続ける半導体
Series Report

第2回
トランジスタとプロセッサ/メモリの発明が
拡大を推進

 

  • 2015.03.31
  • 文/津田 建二

半導体は決して斜陽産業ではない。いまだに年平均5~6%で成長している。例えば2014年の世界の半導体産業は前年比9.9%で成長した。連載第1回は半導体が身近な世界にも拡大し続ける姿を紹介した。半導体産業の発展や変革は、テクノロジーと極めて深い関係がある。テクノロジーなしで、発展の理由を語ることはできない。第2回は、テクノロジーの裏付けから、拡大してきた理由を探る。

半導体産業の勃興は、1947年12月のトランジスタの発明がきっかけだった。それまでの半導体ダイオードは、1方向だけ電流を流すが逆方向には流れない、という性質を持っているだけで、電流を流したり止めたりするような調整弁(スイッチと電流量を制御する役割)を持っていなかった。このため電流を止めるには元の電源を断ち切るしかなかった。トランジスタは、この調整弁を持つ半導体である(図1)。しかも調整弁を動かすのはわずかな電流で、大きな電流を生む、という増幅作用もある。増幅作用があれば信号の減衰を防げる。

トランジスタは電流を流したり止めたりする調整弁を持つ図
[図1] トランジスタは電流を流したり止めたりする調整弁を持つ

入力の調整弁のおかげで、トランジスタは軍用の通信用増幅器や発振器、ラジオなどに使われるようになった。その結果、従来使われていた真空管は、固体のトランジスタに置き換えられていった。1950~60年代のことである。トランジスタは、当初ゲルマニウムで作られていたが、1960年代の後半からシリコンで作られるようになった。シリコンへの転換とほぼ同じ頃、トランジスタを2個、3個と複数個搭載した集積回路(IC)が生まれ、発展していった。ただ、このころ半導体が使われる用途は、まだ軍用、宇宙衛星、などが主で、民生ではソニーのトランジスタラジオ程度だった。その後、このトランジスタラジオから始まったトランジスタの民生利用は、ステレオやテレビにも広がり、産業・企業用途では大型コンピュータの基本要素となったのである。

1971年、米国のインテルがマイクロプロセッサとメモリを発明した。実は半導体産業が他の産業に広がっていくきっかけはこの二つの発明によるところが大きい。現在のクルマや産業機械、テレビ、デジカメ、スマホ、タブレット、パソコン、医療機器、ウエアラブル端末、などほとんどの機器は、マイクロプロセッサとメモリを使っている。トランジスタ単体は今や、ネジ釘の類になっているのだ。

なぜ、マイクロプロセッサとメモリが、ここまで様々な機器に搭載される様になったのか。コンピュータシステムの基本は、図2のような基本回路でできている。プロセッサのコア(中核回路)があり、プログラムを格納するROM(リードオンリーメモリ)、データを絶えず出し入れするRAM(ランダムアクセスメモリ)、外部とのインタフェース、HDD(ハードディスク装置)やSSD(半導体ディスク装置)などのストレージ(データ保存装置)をバスでつなぐ形を取る。上で述べたようなスマホや携帯電話、デジカメなどの電子機器はほとんど全て、コンピュータと同じこの基本回路で構成されるようになってきたのだ。

デジタル回路部の基本ブロックの図
[図2] デジタル回路部の基本ブロック

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