No.008 特集:次世代マテリアル
連載02 人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集
Series Report

過酷な環境下で求められる高度な信頼性

自動車用半導体デバイスでは、パソコンやスマートフォンなどとは比較にならないほど厳しい品質管理が行われている。酷暑の中、極寒の中、激しい振動の中で人命を預かる重要な役割を担うからだ。このため半導体メーカー各社は、特別に車載(オートモーティブ)グレードと呼ばれる高品質規格の製品を用意している。

自動車業界では、大手自動車メーカーと米国の電子部品メーカーが設立した車載用電子部品信頼性の標準化団体、Automotive Electronics Council (AEC)が、自動車用の品質管理規格を定めている。半導体関連では、集積回路を対象にした「AEC-Q100」、トランジスタなど個別半導体を対象にした「AEC-Q101」がある。車載グレードの製品は、おおよそ「AEC-Q100」もしくは「AEC-Q101」に沿った規格になっている。動作温度範囲や振動、静電気、湿度、不良率、寿命、供給期間、サンプルの入手時期などで、一般の製品よりも厳しい基準をクリアしたものだけが、車載グレードとなる。

また、自動車でのソフト制御が広がったことで、何らかの不具合が発生した場合にも、これを安全に対処できる機能の搭載が求められるようになった。さまざまな工業製品で重要性が高まっている、機能安全という考え方だ。2011年、車載用電気・電子システムの機能安全規格「ISO 26262」が発行され、機能安全を正しく作り込むための開発環境や開発手順が標準化された。半導体デバイスの開発やこれを利用する環境も、ISO 26262への準拠が求められるようになったのである。

電動化で重要性が一気に高まるパワー半導体

ここからは、自動車の中のどのようなところに、どのような半導体デバイスが使われているのか。そして今後、どのような方向に進化していくのか。いくつかのトピックスを通じて紹介していく。まず、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)など、自動車の電動化が半導体デバイスに及ぼす影響を見てみよう。

Strategy Analytics"Automotive Semiconductor Demand Forecast 2012-2021"によると、2013年時点での内燃エンジン車に使われている半導体デバイスの総金額は315米ドルだという(図2)。これが電気自動車になると、719米ドルに増加する。そのうち55%を占めているのが、パワー半導体である。

EV車では全半導体コストの半分以上がパワー半導体の図
[図2] EV車では全半導体コストの半分以上がパワー半導体
出典:Strategy Analytics"Automotive Semiconductor Demand Forecast 2012-2021"

電動化によって新たに求められるパワー半導体の代表的な用途として、動力源であるモーターを駆動するインバーターがある。EVなどのインバーターは、モーターにかかる負荷の変化やアクセルの操作があった時、それに応じてバッテリーの電力から最適な電流値、電圧値の駆動電流を作り出す。

クルマを直接駆動するのに使われるパワー半導体は、扱う電力が大きい。このため、何よりも低損失化が求められる。さらに、小型化も重要だ。小型化は、車体の軽量化につながり、低損失化とともに航続距離を長くするための重要な条件になる。ここには、高耐圧と大電流を両立できる、低電力損失のIGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)と呼ぶデバイスが使われることが多い。また近年では、半導体の素材に、より電力損失の少ないSiCという新材料を使ったデバイスの投入が検討されている。既にトヨタ自動車などが、SiCベースの半導体デバイスを使って、低電費の試作車を作っている。

EVやHEVでの電動化では、日本の自動車メーカーが、確実に世界をリードしている。ただし欧州では、少しアプローチの違う電動化が進みつつある。クルマを止める時の惰性回転を利用して発電するオルタネーター(発電機)を、簡易的なハイブリッド車のモーターとして使おうというアプローチだ。オルタネーターを使って、より損失の少ない駆動を可能にするため、欧州の自動車メーカー各社は、これまで12Vだった電源システムの電圧を48Vに引き上げようとしている。これによって、車載の電子機器を駆動するドライバーICなどに、より高い電源電圧への耐性が求められるようになった。

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